森勇二のブログ(古文書学習を中心に)

私は、近世史を学んでいます。古文書解読にも取り組んでいます。いろいろ学んだことをアップしたい思います。このブログは、主として、私が事務局を担当している札幌歴史懇話会の参加者の古文書学習の参考にすることが目的の一つです。

2008年05月

【示(しめす)偏について】

【示(しめす)偏について】

<はじめに>

私は、漢字に関して、阿辻哲次著「部首のはなし」(中公新書)から大きな示唆を受け、また共感もしています。
この小論は、主として前掲書を参考にし、私自身の勉強を加味して書いたものです。

1.新字体の「ネ」偏と旧字体・表外漢字の「示」偏

「しめす偏」の文字は、4画の「ネ」と、5画の「示」の部首にある。漢和辞典の部首索引にも、この両方が載っている。
なぜかというと、昭和24年に「当用漢字字体表」(以下「新字体」)が制定され、それまでの旧字体では、5画の「示」偏だった文字を、「示」の草書体である4画「ネ」の形が採用されたため、当用漢字の4画の「ネ」偏の文字と、当用漢字に採用されてない表外漢字の5画の「示」偏の文字の両方が含まれることになったのである。



2.5画の「ころも」偏との混同

5画の「示」が、新字体で4画の「ネ」になったため、従来からの5画の「ころも」偏との混同が児童・生徒の中で起きることになった。
阿辻氏は「<示>を<ネ>にすることにいったいどのようなメリットがあったのだろうか。 わずか5画で書ける<示>は決して複雑な字形でないし、それを<ネ>と書いたところで、わずか一画しか減らないのである」と疑問を投げかけ、「<示>のままなら、<しめすへん>と<ころもへん>の混同は絶対に起こらなかったにちがいない」と、鋭く指摘している。
たとえば、「よゆう」の「ゆう」、「かっ色」の「かつ」の偏は、どっちなのか、おとなでも迷う。

3.「示」の意味

「しめすへん」の漢字に、「祈」「神」「禅」「社」「祖」「祭」など、神に関係する字が多い。
それは「示」はもともと古代の祭祀で使われた机をかたどった象形文字で、神を祭る時、天上におわす神が着席する机が必要であり、「示」は、神を招くための机という意味から、神や祭りに文字は多く収められている。

3.「しめすへん」の文字
漢和辞典から、いくつか、「しめすへん」の文字の解字をあげる。

・「礼」(旧字体は「禮」)・・つくりの「豊」は、あまざけの意味で、甘酒を神にささげて幸福の到来を祈る儀式の意味を表す。
・「社」(旧字体は、「示」+「土」)・・農民が共同して祭る農耕地の神の意味。
・「祝」(旧字体は、「示」+「口」+「儿」)・・「儿」は、人のひざまづく形で、「口」はいのりの言葉。幸福を求めていのる・いわうの意味。
・「神」(旧字体は、「示」+「申」)・・つくりの「申」は、かみなりの象形で天の神の意味。日本語で「かみなり」は、「神が鳴る」から転じた言葉。
・「禁」・・「示」+「林」で、林におおわれた聖域の意味から、とじこめる、いみさけるのの意味を表す。

・「福」(旧字体の偏は「示」)・・つくりは、神にささげる酒のたるの象形。神に酒をささげ、しあわせになることを祈るさまから、さいわいの意味をあらわす。
このように、「しめすへん」の文字は、神に関する意味が含まれている。
だから、新字体の「ネ」は、「示」の本来の意味を損ねてしまったことになる。

4.弊害を免れた表外漢字
「しめすへん」の文字で、表外漢字は、この弊害を免れた。たとえば、
「祀(まつ)る」「祠(まつ)る・ほこら・やしろ」「祓(はら)う」「禊(みそぎ)」など、偏は「ネ」でなく、本来の「示」のままだ。
また、「祭」「禁」など、偏でなく、あしにある「示」も、難を免れた。

5.「しめすへん」でないのに、被害を受けた文字
「視」は、旧字体では偏は、「示」だった。「視」は、もともと、「しめすへん」でなく、「見(みる)」部だが、新字体で、「示」が「ネ」になってしまった。

<まとめ>

「示」から「ネ」へのわずか一画の簡素化は、こどもたちに、しなくてもよい苦労を強いていることになった。
私は、旧字体主義者ではないが、漢字のもつ本来の意味が失われるような簡素化は、漢字文化の国に住み、日々、漢字に接しているものとして、悲しいことだと思う。

「母」


漢字の話です。

1.「母」の解字(漢字の意義を解明すること。文字の成り立ちを分析すること)
 「女に二点を加えて、ははの意味を示す」(漢語林)。「乳房をつけた女性を描いたもので、子をうみ育てる意味」(漢字源)

2.「母」の部首と画数
 「毋(なかれ)」部。「毋」は4画だが、「母」は5画。

3.新字体で、「母(はは)」が「毋(なかれ)」になった例
・「」(6画)・・旧字体は、「母(はは)」で7画。解字は「頭に髪を結った母」で、次々と子をうむことに重点をおいたことば。
・「」(10画)・・旧字体は、「母(はは)」で、11画。解字は「多くの実をならせ、女の安産を助ける木」
これらは、画数でわずか1画減らしただけで、その漢字の持つ意味が失われてしまった。
・その他・・「海」「繁」「敏」「侮(あなど)る」「悔(く)いる」「晦日(みそか)の晦」など、旧字体の「母(はは)」は「毋(なかれ)」になった。

4.「母」が残った表外漢字
新字体は、昭和24年に当用漢字1850字のうち、約400字を簡略した文字だが、幸いにして、当用漢字に採用されなかった「母」を含む漢字は、その害を免れた。
・「苺(いちご)」・・「ちくびのような形の実になるいちご」(漢語林)。「艸(くさ)」+「母(はは)」で「どんどん小株をうみ出す」(漢字源)
・「拇(おやゆび)」・・「手」+「母」で、子どもに対する母のような、ふとい指。
・「栂(つが、とが」・・拇指(おやゆび)大の果実のつく木。
・「教誨(きょうかい)」などの「誨」

5.もともと「毋(なかれ)」だった漢字
ややこしいことに、もともと、「毋(なかれ)」だった漢字がある。「貫禄」などの「貫」。「習慣」などの「慣」、「毒」などは、もともと、「母(はは)」でなく、「毋(なかれ)」だ。

◎まとめ
「毎」「梅」などの新字体は、残念なことに、漢字本来の意味を失ってしまった。当用漢字に採用されず、その難を免がれた「苺」をうれしくおもう。
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