養老令に規定された「平闕(へいけつ・平出と闕字)」
◎養老律令・・藤原不比等らが「大宝律令」を改修した律(刑法)と令(諸規定)。養老二年(七一八)に制定とするが、異説もある。「平闕」は、令の巻第八公式令(くしきりょう・くうじきりょう)の第二十一~第三十八条に規定されている。なお、養老律令自体は、律令国家の崩壊とあわせて効力を失ったが、公家(くげ)社会では引き続いて形式的に重んじられ、官制などは明治初年まで存続した。欠字、平出も、律令の規定にこだわらず、朝廷ばかりでなく、一般に尊敬を表するいろいろな場面に使われるようになった。職名ばかりでなく、城や屋敷などにも使われ、更には、「仰」など言動にも使われるようになった。
【欠字・闕字(けつじ)】敬意を表するために、一字を空欠にする体裁。 ・大社(たいしゃ・伊勢神宮か)・陵号(りょうごう・先皇の山陵)・乗輿(じょうよ・天子の乗り物。天子の代名詞。キミと訓む)・車駕(きょが・天子の乗り物。天子の代名詞。キョガと発音する)・詔書(しょうしょ・勅命下達の際に用いられる公文書)・勅旨(ちょくし・詔書に次ぐ勅命下達の方法)・明詔(みょうしょう・詔旨の美称)・聖化(せいか・天皇の徳化)・天恩(てんおん・天皇の恩恵)・慈旨(じし・天皇の言葉)・中宮(ちゅうぐう)・・三后=皇后、皇太后、太皇太后)・御(ご・天皇)・闕庭(けつじょう・天皇の居所)・朝庭(じょうじょう・ちょうてい・大極殿の庭)・東宮(とうぐう・皇太子。またその居所)・皇太子(こうたいし・次代の天皇たるべき皇位継承者)・殿下(でんげ・庶人が、三后、皇太子に上啓するときの称え)
右の語を列挙したあと、「右、如此之類(かくのごときたぐい)、並闕字(なみに欠字せよ)」とある。
【平出(へいしゅつ・びょうしゅつ)】名前や称号を書く直前に改行して、前行と同じ高さで名や称号を書いて敬意を表すこと。「平頭抄出(へいとうしょうしつ)」という。平出を「一行闕字」とよぶこともある。 ・皇祖(こうそ・天皇の先祖)・皇祖妣(こうそひ・天皇の亡祖母)・皇考(こうこう・天皇の亡父。考は死んだ父の意)・皇妣(こうひ・崩御した皇太后)・先帝(せんだい・先代の天子)・天子(てんし・天下を治める者)・天皇(てんのう・日本の国王の尊称)・皇帝(こうだい・秦の始皇帝に始まる天子の別称)・陛下(へいげ・きざはしの下。臣下が事を奏するには、陛下にある警衛の臣に告げて奏上し、直奏はしないのが原則。故に陛下を天子の代名詞とする)・至尊(しそん・天子)・太上天皇(だいじょうてんのう・天皇譲位後の称号)・天皇諡(てんのうのし・天皇の死後の称号)・太皇太后(たいこうたいごう・だいこうだいごう・先々代の天皇の皇后)・皇太后(こうだいごう)」、皇后(こうごう・天皇の嫡妻)
右の語を列挙したあと、「右、皆平出(みな平出せよ)」とある。
【台頭・擡頭(たいとう)】貴人に関する語を、敬意を表して改行し、普通より上に書くこと。ふつうは一字あげ、天子に関する事柄は二字あげるのが通例。
*参考文献・『日本思想大系』(岩波書店)の第三巻「律令」(井上光貞ほか校注)