(25-1)「戌亥(いぬい)」・・北東。
(25-3)「帆巻の」・・異本は、「帆、巻て」に作る。「の」は、「て」か。
(25-5)「一所(ひとところ)」・・一つの場所。同じところ。異本は、「一所」に「ひとところ」とふりがながある。
(25-5)「まどゐ」・・円居。集まってまるく居並ぶこと。くるまざ。
(25-6)「祝日(いわいび)」・・異本は、「祝ひ日」に作る。
(25-7)「氏(うじ)の神(かみ)」・・氏神。村落共同体が共通の守護神としてまつる神。また、それをまつった神社。村氏神。鎮守。産土神(うぶすながみ)。
(25-7)「神日」・・異本は、「縁日」につくる。「神」は「縁」の誤りか。
(25-9)「すはや」・・すは(すは)。人に注意したり、事態の進展に自ら驚いたりしたときに発する語。あっ。やぁ。それっ。さあ。感動詞「すは」+間投詞「や」。
(25-10)「巳(み)の時」・・午前10時ころ。
(25-10)「未(ひつじ)の時」・・午後2時ころ。
(26-1)「此後(こののち)」・・異本は、「此のち」と、「のち」を仮名に作る。
(26-3)「御惠(みめぐみ)」・・ありがたいおなさけ。
(26-3)「尊(たっと)み」・・あがめ重んじて。「尊(たっと)む」の連用形。「尊(たっと)む」は、「たふとむ」の変化した語。「尊む」はあがめ敬う意。「貴む」は、価値あるものとして大切にすること。
(26-5)「言様(ゆいよう)」・・「いいよう(言様)」の変化した語。口のきき方。言い方。
(26-6~7)「覚悟せずば、あ(悪)しかり(ら)なん」・・「あ(悪)しかりなん」は、文法的には、「あ(悪)しからなん」が正しい。「り」は、「ら」が本来。なぜなら、係助詞「なん」は、未然形に接続するから、「あ(悪)し」の未然形は、「あ(悪)しから」。¥あ(悪)しからなん」の語誌は、ク活用形容詞「あ(悪)し」の未然形「あ(悪)しから」+係助詞「なん(む)」。
口語訳の直訳は、「覚悟しなければ悪いだろう」で、転じて、「覚悟するのがよい」で、意訳は、「覚悟しよう」くらいの意か。
(26-7)「のぼり船(ぶね)」・・督乗丸の出発地・故郷である尾張・師崎(もとざき)へ帰る船。「上り」は、通常は、地方から都へ向かっていくことをいうが、基本的な意味は、その過程や経路に重点がおかれた上方への移動をさす。
(26-8)「五斗俵(ごとびょう)」・・米五斗を入れた俵。五斗入の米俵。仙台米など所によってこれを用いた。
(26-8)「ならではなし」・・~しかない。「ならでは」は、あとの打消の表現に呼応する。…でなくては(…しない)。…でなければ。…以外には。
(26-9)「割合(わりあい・わりあて)」・・「わりあい」は、分割して。動詞「割合(わりあ)ふ」の連用形。
また、「合」を「あて」「あてる」と訓じる場合もある。
(26-9)「一人前(ひとりまえ)」・・ひとりに与えるべき分量。ひとりが受け持つべき分量。
(27-1)「蘭引(らんびき)」・・
ポルトガル語「alambique」から。酒・香料・薬種などを蒸留する器具。多くは陶製の深い鍋の上に冷水を入れた鍋を蓋とし、下から火をたいて蒸留させるもの。江戸時代に用いられた。また、漂流船などで水が欠乏した場合、鍋・釜などを利用して臨時につくる蒸留水の製造装置。幕末から明治になると、既製品も現れた。図参照。漂流船では、自船の釜や桶を利用した。
船内の水は、「水樽」(はず)と呼ばれる水槽に貯えられており、通常の航海には十分間に合ったのだが、漂流した時などは、船上で水を作る必要に迫られ、「蘭引の法」が行われた。下部で火をたき、海水を煮立てて、その蒸気が上部の冷たい海水の入った器の底に触れて水滴になり、蒸留水を作るもので、陶器製のものは主に医療向きの陸上用で、船上では、釜、鍋、樽などを応急的に組み合わせたものだった。
(27-1~2)「重吉、工夫して蘭引をこしらえたり。先、大釜へ・・」・・異本は、「こしらえたり」のあとに、数行の文章がある。全文を引用すると、
「重吉、その暁(あけ)の夢、白衣の来り告げ給ふには、汐より水を取りて呑むべし。そのあり様は、大釜に潮を汲籠(くみこめ)て、これを煮てその上へ桶を置き、上へ大鍋を俯(ふ)せて、その鍋中に溜りたる液の流れ下るを受ければ、浄水となるべしと、くわしくこれを教へ給ふを見て、夢はさめたり。重吉、心中はなはだ有難(ありがた)く、全く金比羅の御告げならんと、翌早朝に垢離(こり)を取り、皆々に夢の告げを語り、さて夢の教へに工夫して、この水を取りけるとなり」
とあり、そのあと、「先、大釜へ・・」と続く。
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