(35-8)「大三十日(おおみそか)」・・一年の最終日。おおつごもり。一年の最終の日。毎月ある晦日(「みそか」とは三十日の意)に大の字をつけたのである。大つごもり(「つごもり」は月籠りの義)ともいう。商家では決算に忙しく、家庭では正月祝いの準備を整える。この夜は除夜とも大年の夜とも呼ばれ、その夜半をもって新年の訪れとするので、特につつしみこもるべきものとされた。所によって、年ごもりといって、神社や堂に村人あるいは若衆・小児がこもり、終夜眠ることなく元日を迎えるところがあり、この夜は眠るものではないとする禁忌の観念も行きわたっている。仮眠をするにしても、わざわざ「稲を積む」などと忌み言葉を用いることにしているのもそのためである。この夜半に火を打ち替える行事は各地に残っており、京都の祇園(八坂神社)の白朮(おけら)祭や平野神社の斎火(いみび)祭もその例である。神社によっては終夜大篝火(おおかがりび)を焚くところもある。またこの日は、盆と同じように、亡き魂を迎えて祀る夜でもあった。中部から関東にかけてミタマメシの習俗が伝わっている村があるのはその名残で、文献上では、『枕草子』に、師走の晦日にゆずりはを、亡き人に供える食物に敷くことを記し、またこの夜に亡き魂が訪れ来ることを詠んだ和泉式部の和歌もあり、『徒然草』には、都ではすでにすたれたが関東ではこの夜魂まつるわざをすると記している。またこの夜寺々では除夜の鐘をつく。この百八の鐘の音は、宋から始まったといわれ、十二ヵ月・二十四気・七十二候を合算した数であるというが、後世は「百八煩悩」をさますためのものと説かれるようになった。
*みそか(晦日・三十日)・・暦の月の初めから三〇番めの日。また、月の末日をいい、一二月の末日は大みそか、二九日で終わるのを九日みそかという
(35-8)「冬はけふ(今日)一日」・・陰暦では、10,11,12月は冬。1,2,3月が春。したがって、大晦日は、冬の最終日。
(35-9)「南(みなみ)」・・みなみ風。
(35-9)「東風(こち)」・・ひがし風。
(35-10)「愛度(めでたく)」・・よろこばしく。
(35-11)「有(あり)あふ」・・有り合う。たまたまそこにある。ありあわせる。
(36-1)「取(とり)なし」・・みせかけて。「取なす」は、そのようなふりをする。実際とは違ったように見せかける。
(36-1)「かゞみもち」・・鏡餅。円形で平らな、鏡の形のように作った餠。正月または祝いのときに大小二個を重ねて神仏に供える。
*「鏡開き」・・「開き」は「割り」の忌み詞。正月行事の一つ。正月に供えた鏡餠をおろし、二〇日の小豆粥(あずきがゆ)に入れて食べる。のち一一日の仕事始め(倉開き)に行なうようになった。武家時代には、男子は具足に、婦女は鏡台に供えた鏡餠を、二〇日に取り下げ、割って食べた。婦女は初鏡祝いともいう。鏡割り。具足の餠を開くというところから「具足開き」といったり、鏡台で顔を初めて見るというところから「初顔祝い」「初鏡の祝い」といったりもした。二〇日に祝うのは、男性は「刃柄(はつか)」、女性は「初顔(はつかお)」にかけたもの。仕事始め(倉開き)の十一日に行なうようになったのは徳川家光が慶安4年(1681)4月20日に死去したことによるという。
(36-2)「団子(だんご)」語誌・・①中国の北宋末の京の風俗を写した「東京夢華録」の、夜店や市街で売っている食べ物の記録に「団子」が見え、これが日本に伝えられた可能性がある。②「伊京集」にはダンゴ・ダンスの両形が見られ、そのダンスは唐音の形と思われる。「日葡辞書」にはダンゴの形しかなく、近世ではもっぱらダンゴが優勢のようであるが、ダンス・ダンシの形も後々まで存在する。③中世まではもっぱら貴族や僧侶の点心として食されたが、近世になると、都会を中心に庶民の軽食としてもてはやされるようになった。団子を売る店や行商人も多く、各地で名物団子が生まれている。
*<漢字の話>重箱読み(合羽読み)・・「だんご」と読むのは、重箱読み。「重箱読み」とは、「重(ジュウ)・箱(ばこ)」のように、上が音読み、下が訓読みする場合をいう。合羽読みともいう。「ダン」は音読み。「子」は訓読み。その他、「縁組(えんぐみ)」「献立(こんだて)」「出立(しゅったつ)」「王手(おうて)」など。
なお、上が訓読み、下が音読みの場合を「湯(ゆ)桶(とう)」読みという。
(36-3)「御酒(おみき)」・・神前に供える酒。神や天皇に供える酒の尊称。「みき」を供えたことは、『日本書紀』巻5をはじめ『万葉集』その他の古典に散見する。神酒、御酒(みき)、大神酒(おほみき)などとも記され、「「み」は美称を表す接頭語。現在は一般に清酒をこれにあてるが、もとは濁酒で、宮中の新嘗祭(にいなめさい)や伊勢神宮の祭祀(さいし)には、古来、白酒(しろき)と黒酒(くろき)が供えられている。黒酒は常山(くさぎ)の灰を入れてつくる。清酒と濁酒を白酒と黒酒にあてることもあり、醴酒(こさけ)(一夜酒(ひとよざけ))も神酒として供えられる。『延喜式(えんぎしき)』では、神酒を醸造するために造酒司(みきづかさ)が置かれていた。
*「酒(みき)」の語源説・・①ミは御の意。キは酒の古語〔円珠庵雑記・瓦礫雑考・大言海〕。キは酒の意の語クシの約〔古事記伝〕。②ミは御の意。キはイキ(気)の略。酒はイキ(気)の強いものであるところから〔和訓栞・言葉の根しらべ=鈴江潔子〕。ミは発語。キは気の義〔俚言集覧〕。ミイキ(御息)の義〔名言通・俚言集覧〕。③ミイキ(実気)の義〔紫門和語類集〕。④ミケ(御饌)の義〔言元梯〕。⑤ミは美称。キはカミの約。酒は噛んで造るものであるところから〔和訓集説〕。
*<漢字の話>「酒」・・「酒」の部首は、「水」部(偏になればサンズイ)ではなく、「酉」(ひよみのとり)部。「ひよみ」は「暦(こよみ)」。十二支の「酉」の意味で、鳥と区別していう。「酉」は、元来は酒つぼ(「くすりつぼ」とも)を表す象形文字。この部首には、酒、薬、醸造に関する語が多い。「酌(くむ・シャク)」・「酔(よう・スイ)」・「酢(す)」・「酪(ちちしる・ラク)」・「酸(すい・サン)」・しょうゆの「醤」・「醸(かもす・ジョウ)」・医者の「医」の旧字「醫」(医者は薬で患者を治療する)。
(36-1~2)「なまながら」・・なまのままで、「ながら」は、「まま」「ままで」の意を表わす。動詞の連用形・体言・形容詞の語幹・副詞、まれに活用語連体形を受ける。
(36-3)「割(わり)をして」・・分担して。
(36-3~4)「申(さる)の時(とき)」・・午後4時頃。
(36-7)「十吉(じゅうきち)」・・重吉。
(36-7)「吉例(きちれい・きつれい)」・・以前からずっと引き続いて行なわれている、めでたいしきたり。ここでは正月のお祝いのこと。
(36-7)「神道清浄(しんとうしょうじょう)」・・「清浄」は、煩悩や悪行がなく、心身の清らかなこと。
*<漢字の話>「道」・・「トウ」は呉音「ドウ」は漢音。
(36-7)「神道清浄に」・・「に」は、「の」を訂正している。「の」の右に、見せ消ち記号「二」がある。
(36-9)「冨貴(ふうき)」・・富んで尊いこと。財産が豊かで位の高いこと。
*<漢字の話>「富」・・「フ」は呉音、「フウ」は漢音。なお、影印は、ワ冠の「冨」。「冨」は、平成16年、人名漢字に追加された。
(36-9)「冨貴の人も同然なるに」・・正月には、貧しい者も富める者と同様に十分に飲み食いして楽しむのに。
(36-10)「此(かくの)ごとく」・・このように。「此」は、普通の「この」だが、「如レ此」は、「かくのごとし(く)と読む。
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