森勇二のブログ(古文書学習を中心に)

私は、近世史を学んでいます。古文書解読にも取り組んでいます。いろいろ学んだことをアップしたい思います。このブログは、主として、私が事務局を担当している札幌歴史懇話会の参加者の古文書学習の参考にすることが目的の一つです。

2012年12月

 「船長日記」12月注 (2)

(42-1)「涕(なみだ)」<漢字の話>・・ジャパンナレッジ版『字通』には、<「涕」thyei、「涙」liuei、「洟」jieiはそれぞれ声義の関係があり、「泗」sietもその系統の語。洟(い)は鼻液、泗もまた鼻よりするものをいう。みな涙の類>とある。

(42-5)「あららげ」・・荒くして。下2動詞「あららぐ」の連用形。

(42-56)「船を下(くだ)し、登らんとて」・・本文に則していえば、尾張から督乗丸を江戸に向け下し(航行し)、荷物を降ろしたり積んだりして、また、故郷の尾張に向け、登ろう(航行しよう)として。

(42-6)「くるしみにあらずや」・・苦しむでないことはない。苦しみだ。「ずや」は、打消しの助動詞「ず」の連用形「ず」+反語の係助詞「や」で、二重否定になる。「~ではないことはない。~である」

(42-7)「うたふ」・・悲鳴をあげる。泣く。

*「サア、いま金払へば料簡する。もし金がなけりゃ引摺(ひきず)って行てうたはすのぢゃ、うせさらせ」(歌舞伎・花雪恋手鑑〔1833〕)

(42-9)「さしも」・・副詞「さ(然)」に助詞「し」「も」が付いてできたもの。副詞「さ(然)」を強めたいい方。これほどにも。あれほどにも。

(42-11)「おもてを合(あわ)せて」・・顔を見合わせて。「おもて」は、「面」で、顔。「合て」は、異本は、「見合せて」に作る。

「船長日記」12月注 (1)

(37-1)「さのみ」・・副詞「さ(然)」に助詞「のみ」が付いてできたもの。そのようにばかり。ひたすらそのように。

(37-2)「めで度(たく)」・・めでたく。「で」は、変体仮名の「傳」。

(37-2)「帰るべき春の初なれば」・・異本は、「帰るべし。その喜びの春の初なれば」に作る。つまり、「春」の前に、「その喜びの」が挿入されている。

(37-2)「かまへて(構えて)」・・決して。動詞「かまえる(構)」の連用形に助詞「て」の付いてできた語。否定語を伴って、手段を尽くして実現させるな、という相手への禁止を示す。絶対に(…するな)。決して(…するな)。

(37-3~4)「ましかは」・・不詳。

(37-4)「いかめしき(厳めしき)」・・形容詞「いか(厳)めし」の連体形。立派な。しっかりした。

(37-4)「雑煮(ぞうに)」・・餅に具をあしらって汁に仕立てたもの。正月を祝う献立には欠くことができない。雑煮はもと烹雑(ほうぞう)ともいい、いろいろな物を煮まぜたもので、元来は必ずしも元日のものとは限らなかった。しかし、元日には必ずこれを作る風習は、室町時代には成立していた。『鈴鹿家記』にはじめて雑煮の字がみえており、この呼び名は大体鎌倉時代末か、南北朝時代ころからのものと考えられる。もっとも、元日に餅を食する習慣は、中国から伝わった歯固(はがため)の行事として、平安時代初期から発生している。雑煮の調味は、『料理物語』に「雑煮は中みそ又すましにても仕立候」とあり、室町時代の『看聞御記』や『多聞院日記』をみても、本来は味噌仕立てであることがわかる。現在は、京都や大阪などで行われているような芋頭・大根・豆腐などいろいろの具を入れて白味噌仕立てにする上方系と、鳥肉・みつ葉など簡単な具を清汁にする東国系とに分けることができる。(この項『国史大辞典』より)

 <漢字の話>「雑」・・「雑音(ざつおん)」「雑学(ざつがく)」「雑談(ざつだん)」など、一般に「ザツ」と発音することが多いが、「ザツ」は、国訓。「雑煮(ぞうに)」「雑巾(ぞうきん)」「雑木林(ぞうきばやし)」のように、「ゾウ」と発音するのは、呉音。

(37-5)「事にしあれば」・・事にあれば。「し」は、強調の副助詞。多く「し~ば~」という条件句に中で用いられる。「名に負はば いざこととはむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」(『古今集』)

(37-5)「いかでか」・・「いか(如何)で」に強めの助詞「か」の付いたもの。反語の意を表わす。何として。どうして…できようか。どうして…しようか。ここでは、「どうして泣かずにおられようか。いや、泣きたい」

 *語誌・・理由や原因を問う形式として「なに(か)、など(か)、なぞ」などがあり、上代には「いかに」系が様子・方法、「なに」系が理由・原因という区分けが比較的はっきりしていたが、平安期には「いかで」の理由・原因を問う用法が発達し、「なに」系の用法を侵食していった。なお平安中期以降になると反語のときには多くの場合「いかでか」の形をとるようになる

(37-8)「元日二日は」・・異本は「元日一日は」に作る。ここは、文意からして、「二日」でなく、「一日(いちにち)が妥当か。

(37-9)「吉兆(きっちょう)」・・めでたいしるし。縁起のよいきざし。ひだりに「きちてう」と傍書があるが、歴史的仮名遣い。現代では、「きっちょう」と書き、「キッチョー」と発音する。

(37-9~10)「嬉しく侍(はべり)」・・異本は、「嬉しく」の前に、「元日は米のみ給はることならば」がある。

 <文法の話>「侍(はべり)」・・ラ行変格活用動詞。本文では、「侍(はべ)り候(そうろう)」のように、「候」などの動詞が省略された連用終止形と見るのが妥当か。とすると、「侍」は、「はべり」と発音するのが妥当。異本は、「はべれ」(已然形?・命令形?)としているが、どうか。

(37-10)「止(とどめ)たり」・・異本は、かなで「とどめたり」に作る。

(38-1)「何国(いづく)の」・・異本は、かなで、「いづくの」に作る。

(38-2)「元朝(がんちょう)」・・元日の朝。元旦。

 <漢字の話>「元旦」・・「元」の解字は、かんむりをつけた人の象形で、かしらの意味をあらわす。また、「旦」の解字は、「日」に地平線を表す「一」を加えて、あかるくなっていく早朝の意味を示す。したがって、「元旦」は、「朝のかしら」で、「最初の朝」。つまり1月1日の朝のこと。「元旦」を「元日」の意で使うのは誤り。

 「一月元旦」も「一月元日」もあやまり。年賀状の年月日は、「平成二十五年元日」が正しいことになる。

(38-2)「寅の時」・・午前4時頃。

(38-2)「燈(ともしび)」・・異本はかなで「ともしび」に作る。

(38-4)「かぢ(舵)」・・「かじ」とせず、「かぢ」となっていることについては、語源説が影響しているか。つまり、

・カケチガヘ(掛差)の略。斜めに船尾にかけるから〔名言通〕。

・カはカユル、カヨフの意。チは波路のチ〔和句解〕。

・カチ(風道)の義〔言元梯〕。

・カはカイ(櫂)のカ、チは方向の意か〔国語の語根とその分類=大島正健〕。

・カは櫂の古言、チはト(物)の転呼か。船の方向を操作するための舵の意に専用され、船尾で使用するので梶と書くようになった〔日本古語大辞典=松岡静雄〕。

(38-5)「おもて」・・船首部の総称。舳(へ)。

*「越中次郎兵衛盛嗣、船のおもてに立いで、大音声をあげて申けるは」(『平家物語』)

(38-5)「明(あき)の方(かた・ホウ)」・・陰陽道(おんみょうどう)で歳徳神(としとくじん)のつかさどる方角。十干(じっかん)を陰陽に分け、甲丙戊庚壬を陽、乙丁己辛癸を陰とし、陽の干にあたる年はその干にあたる方位を明きの方として、万事につけて大吉の方位とする。あきのほう。恵方(えほう)。甲・己年は東北東、乙・庚年は西南西、丙・辛年は南南東、丁・壬年は北北西、戊・癸年は南南東にあたる。

 文化11年は、甲戌(きのえいぬ)だから、「明の方」は、「甲」、つまり、東北東。ちなみに来年2013年の干支は、「癸巳(みずのと・み)」だから、来年の「明の方」は、北北東。

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