(61-2)「極(き)めし」・・きめた。決心した。組成は、下2動詞「極(き)む」の連用形「極(き)め」+過去の助動詞「き」の連体形「し」。「極(き)む」は、ひろく「決(き)む」と書く。
(61-2)「事ぞなき」<文法の話>・・「ぞなき」の組成は、係助詞「ぞ」+ク活用形容詞「なし」の連体形「なき」。「ぞなし」とせず、「ぞなき」となるのは、係り結びの法則で、「ぞ・なむ・や・か」または「こそ」(係り)に呼応して、その文を終止する述語である活用語が、それぞれ連体、已然の各活用形をとる(結び)現象をさす。「声聞く時ぞ秋は悲しき」「柿本人麿なむ歌の聖なりける」「春やとき花やおそき」「祝ふ今日こそ楽しけれ」など。
(61-2~3)「とやかく」・「とやかくや」の変化したもの。「と」を伴って用いることもある。雑多な事態を、特定しないまま列挙するのに用いる。非難したり迷惑に思う気持を込める場合が多い。何のかのと。ああだこうだと。あれやこれやと。
(61-3)「するほどに」・・変体仮名は、「春(す)」+「類(る)」+「本(ほ)」+「止(と・ど)」+「丹(に)」
(61-3)「文化十二亥」・・文化12年(1815)。年月日の表記には、「年」を省略することは、よ
く見かける。この年の干支は「乙亥(おつがい・いつがい・きのとい)」
*<漢字の話>「乙」・・「オツ」は呉音、「イツ」は漢音。
①「乙鳥(いっちょう)」・・燕のこと。燕の元の字は乙(いつ)で、
字の形と音とが似ているところから「乙」を通用する。
②「乙夜(いつや)」・・今の午後10時前後の2時間。または10時
以降の2時間。
②「乙夜之覧(イツヤのラン)」・・天子の書見。天子は昼間政務で
忙しく、夜10時過ぎに読書するからいう。乙覧。
(61-3)「正月元日」・・「元日」は、一年の最初の日、つまり1月1日だから、「正月元日」とい
う 言い方は、「列車に乗車する」と同じ言い方で、正しくない。ここは、「文化十二亥元日」
で、「正月」はいらない。なお、「正月」は、一年の初めの月。古代中国では帝王が新しく国を
たてると、暦を改めた。陰暦正月は夏の時代の暦の正月に基づく。夏暦は十二支の寅の月、殷は丑の月(十二月)、周は子の月(十一月)、秦は亥の月(十月)を正月と定めた。漢代以降清代まで夏暦が用いられ、この暦がわが国に伝来された。寅の月は孟春の季節にあたり、春を一年の最初とするわが国の習俗と合致し、正月は年頭であるとともに初春という意識を形成した。
また、「正月」の語源説に、<政治に専念した秦の始皇の降誕の月であるところからセイグヮツ(政月)といっていたものが、「正月」と書かれるようになり、音が改められたもの>(ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』)がある。
*<漢字の話>「元日」・・「がんじつ」と読むと、「がん」は呉音、「じつ」は漢音。熟語を音読する場合、上下とも漢音、上下とも呉音に読むのが普通である。このように、漢音・呉音を混交して音読する例も往往ある。
たとえば、「言語」の「げんご」と読めば、上は漢音、下は呉音。
(61-4)「思安」・・思案。思いめぐらすこと。深く考えること。また、その考え。「安」は当て字。
(61-5)「終(つい)に」・・行為や状態が、最終的に実現するさまを示す。最後に。とうとう。結局。いよいよ。
*<漢字の話1>「終」・・国訓には、普通は「おわ(る)」「おえ(る)」が多い。そのほか、
①「つい」・・「終(つい)の別れ」「終(つい)の住処」
「卑怯な私は、終(つい)に自分で自分をKに説明するのが厭になったのです」
(漱石『こゝろ』)
②「おおせる」・・「逃げ終(おお)せる」
「其不思議のうちには、自分の周囲と能く闘ひ終(おお)せたものだといふ
誇りも大分交ってゐた」(漱石『道草』)
③「しまう」・・「これでお終(しま)いだ」「終(しま)い湯」
「新開地は店を早く終(しま)ふので此店も最早(もう)閉っていた」(国
木田独歩『竹の木戸』)
*<漢字の話2>「終」・・解字は、甲骨文は象形で、糸の両端を結んだ形にかたどり、糸の結びめ、おわちの意味を表す。篆文は季節の終わりの「冬」に糸を付した。
(61-5)「命のさかひ」・・死ぬか生きるかの分かれ目。命の瀬戸。
(61-5)「とらず」・・「ず」は変体仮名の「須」。
(61-5)「弥(いよいよ)」・・「弥」は、国訓で、「いや」<「弥栄(いやさか)」「弥増(いやまし)」>、「いや」、「いよいよ」と読む。「いよいよ」は、「愈」「愈愈」「愈々」「弥弥」「弥々」とも書く。
(61-6)「付たる」・・変体仮名は、「た」は「多」、「る」は、「流」。
(61-7)「去(さる)にても」・・然るにても。組成は、ラ変動詞「さり(副詞「さ」にラ変動詞「あり」の付いた「さあり」が変化した語)」の連体形「さる」+連語「にて」+係助詞「も」。そうであっても。それにしても。それはそれとしても。
(61-7)「すぢ」・・筋。おもむき。ようす。さま。「助るすぢ」は、助かるようなこと。
(61-8)「ぞかし」・・文末にあって強調を表わす係助詞「ぞ」に、間投助詞(一説、終助詞)「かし」が付いたもの。自己の考えを強く聞き手に向かって主張し、みずからも確認する気持を表わす。…なのだよ。「人の命ぞかし」は、「人の命であることよ」。
*「多くの人殺してける心ぞかし」(『竹取物語』)
*「この住吉の明神は、例の神ぞかし」(『土佐日記』
*「ここは常陸の宮ぞかし」(『源氏物語』)
*「その程を尋ねてし給ふぞかし」(『堤中納言物語 虫めづる姫君』)
*「夏の蝉の春秋を知らぬも有ぞかし」(『徒然草』)
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