(84-1)<くずし字の話>「よく洗(あらい)て」の「よ」・・「よく」の「よ」の1画目の横棒がほとんどないか、「ヽ」になっている場合がある。(『くずし字用例辞典』P1288下段参照)
(84-1)<漢字の話>「釣」・・①常用漢字で、旁の3画目が「一」から「ヽ」になった。「勺」「的」「酌」まど。
②常用漢字になっていない字は、「一」のまま。
(84-2)「薬種」・・薬の材料。調剤前の薬品。主として、漢方薬の原料。
(84-3)「とにかくに」・・何かにつけて。得てして。どうかすると。ともすれば。とかくに。
(84-4)「のみ」・・今日では、①「ある事物を取り立てて限定する。強調表現を伴う。…だけ。…ばかり」の意だが、ここは、①の限定の意味合いが薄れ、強調表現のために用いられたもの。ある事物や連用修飾語の意味を強調する。「~が」
(84-4)「ことば通じせね」・・「通じせぬ」は、語調がよくない。異本は「通ぜぬ」と、「し」がない。
(84-5)<くすじ字の話>「見れ共」の「共」・・冠の部分が省略されて、脚の「ハ」だけになっていたり、「ん」のようになっている場合が多い。(『くずし字用例辞典』P84下段)
(85-5)「いとど」・・副詞「いと」の重なった「いといと」が変化したもの。程度が更にはなはだしいさま。ますます。いよいよ。ひとしお。一段と。
(84-6)「午(うま)の時(とき)」・・昼の12時ころ。
(84-6~7)「給物(たべもの)や出(いず)るらん」・・食べ物が出るだろうか。「や」は、係助詞。結びの推量の助動詞「らん」は「らん」の連体形。「係り結びの法則」といい、文末は連体形で結ぶ。
(84-7)「大きやかなる」・・形容動詞「大きやかなり」の連体形。「やか」は接尾語。大きく見えるさま。
(84-8)<くずし字の話>「真中」の「真」・・冠の部分が「者」のくずし字のようになって、脚の「ハ」が大きくなったり、「つ」のようになっている場合が多い。(『くずし字用例辞典』P735下段~P736上段)
(84-8)「居(す)へて」・・置いて。下2動詞「居(す)う」の連用形。本来ならおくりがなは、「居(す)ゑ」と「ゑ」でであるべきで、「居(す)へ」の「へ」は誤用。「据う」とも。
(84-9)「中に据、」・・影印は、「倨」と、ニンベンになっている。テヘンの「据」の誤りか。ちなみに「倨」は、「おごる・あなどる」の意で、「倨気(キョキ)」(ごうまんな気分)、「倨視(キョシ)」(たかぶって人をみさげる)などの熟語がある。
(84-9)「キヤマン」・・ギヤマン。オランダ語「diamant 」。彫刻をほどこしたガラス製品を「ギヤマン彫り」と呼んだところから。ガラス製品一般をさす。ビードロ。玻璃(はり)。
(84-9)<漢字の話>「庖」・・①「庖」は、常用漢字でないから、脚の3~5画目は、「己」でではなく「巳」。同様に「鞄」(かばん)、「炮」(鉄炮)、「鉋」(かんな)、「咆」(咆える)、「雹」(ひょう・あられ)なども、「巳」
②常用漢字になった字は、「巳」から、「己」になった。「包」(つつむ)、「抱」(だく)、「泡」(あわ)、「砲」(鉄砲)、「胞」(同胞)、「飽」(飽きる)
(84-10)「めぐり」・・動詞「めぐる(巡)」の連用形の名詞化。かこみ。周囲。
(84-10)「床几(しょうぎ)」・・室内で臨時に着席する際に用いる一種の腰掛け。脚を打違いに組み尻の当たる部分に革を張り、携帯に便利なように作ったもの。陣中や狩り場などでも用いられた。また、神輿の台などにも使用された。畳床几(たたみしょうぎ)。
(85-1)「呑(のど)」・・普通は、「喉・咽・吭」などを使う。
(85-2)「かゝる」・・腰かける。
(85-2~3)「丼鉢(どんぶりばち)」・・厚手で深い陶製の、食物を盛る鉢。なお、「丼」は、「井」の本字。国字としては、井戸に物を投げたさまから、「どぶん」「どんぶり」の音を取って、「どんぶり」の意味を表す。ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の補注に<「丼」には「集韻」に「投物井中声」とあるように、井戸に物を投げいれた音の意がある。名詞ドンブリに「丼」があてられたのは、井戸に物を投げいれたときの音をさす副詞ドンブリに対応する漢語が「丼」であったことによるか。>とある。
(85-3)「もろこし」・・もろこし(唐土)より渡来したところから。イネ科の一年草。アフリカ原産で、日本へは中国を経て渡来し、広く栽培されている。高さ一・五~三メートル。稈(かん)の節に短毛を生じる。葉は線状披針形、長さ約六〇センチメートル。夏、梢頭に長さ二〇~三〇センチメートルの円錐状の花穂をたてる。小穂は卵形で赤褐色。子実は白・赤褐色・黒色など。「もち」と「うるち」の別があり、子実を粉末にして餠や団子をつくる。漢名、蜀黍。たかきび。もろこしきび。とうきび。
(85-4)「ヘケツ」・・本書では、これまで船頭を「べケツ」としているので、「ベケツ」のことか。
(86-1)「円豆(えんどう)」・・空豆。「豌豆」「薗豆」とも書く。
(86-1)「青み」・・青味。吸い物、刺身、焼き魚などのあしらえとして添える青い野菜。
(86-6)「しらげ」・・動詞「しらげる(精)」の連用形の名詞化。米をつきしらげること。玄米をついて精白すること。また、その米。白米。
(86-8)「太白(たいはく)」・・精製した純白の砂糖。ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』は、「支那よりは三種白糖を持来る。上品を三盆と云、次を上白、下品を太白と云」という『随筆・守貞漫稿』の用例を引いている。
(87-3)「しひて」・・動詞「しいる(強)」の連用形に助詞「て」が付いてできた語。むりに。むりやりに。おして。あえて。
(87-6)「残なく」・・残らず。
(87-8)「聞(きか)まほしく」・・聞きたく思って。「まほしく」は、助動詞「まほし」の未然形。「話し手、またはそれ以外の人物の願望を表わす。…したい。」
(88-2~3)「気(け)しき」・・様子、有様。
(88-3)<文法の話>「見する」・・「見する」は、「見す」の連体形。ここは、「見す」と終止形が本来だが、連体止めの用法。なお、異本は、「見するを」と、接続助詞の「を」を下接している。「を」は連体形に接続するから、この場合は、「見する」でいい。
(88-4)「切(きり)こなして」・・切って細かくして。「切こなす」は、たくみに所要の形に切る。適宜に切る。
(88-4~5)<文法の話>「塩漬にしたるにてぞ有ける」・・「有ける」は、終止形では「有けり」。ここでは、係助詞「ぞ」を受けて連体形「ける」で終止する。「係結終止法」という。
(88-5)「浅ましき」・・「浅まし」は、②意外である。驚くべきさまである。②品性がいやしい。がつがつしている。さもしい。などの意があるが、ここでは②か。
語誌についてジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』には、<平安散文では、思わぬ結果になった後の落胆、失意といった不快な感じを込めている。時代が下がるにつれて、情けない、見苦しい、いたましいといった意が強くなり、近世では貧しい、品性がいやしい、さもしいの意となり、現代語に連なる。>とある。
(88-6)「十五日」・・陰暦正月一五日の朝には、一年中の邪気を払うとして、望粥(もちがゆ)の御膳を供する。古くは米・粟・黍・稗・子(みのごめ)・胡麻・小豆の七種をまぜてたいた粥と、小豆を入れた粥とが行なわれたが、のちには小豆粥だけになった。本文は2月15日だが、その習慣は適用されたのか。
(88-7)「わきて」・・動詞「わく(分)」の連用形に、助詞「て」の付いてできた語。特に。格別に。とりわけ。わけて。わいて。
(88-9)「今は、神々をおがむ事はできす」・・肉を食すれば、けがれたりとして、神前で拝む事はできない。
(88-11)「いやとよ」・・感動詞「いや(否)」+連語「とよ」から。他人のことばを強く打ち消す時のことば。いやそうではない。
(89-1)「何にまれ」・・「何にもあれ」の変化したもの。事物を非選択的に受け入れる気持を表わす。どんなものでも。どれと限らず。
(89-2)<文法の話>「言聞せける」・・「ける」は、「けり」の連体形。ここは、本来は「言聞せけり」だが、連体止めの形をとっている。
(89-3)「そがそか敷(しく)」・・「そがそがし」は、曾我兄弟が貧に苦しんだところから「曾我」にかけて、貧乏じみたさまや貧弱なさまを表わす語。
(89-5)「あくまで」・・飽きるほど。ここでは、食べ飽きるほど。「あく」は、4段活用「あく」の連体形。副助詞「まで」は連体形に接続する。
(89-6)「漸々(ようよう)に」・・だんだんに。すこしづつ。
(89-7)「ものしたり」・・そのようにした。「ものす」は、名詞「もの(物)」にサ変動詞「する」の付いてできたもの。種々の動詞の代わりとして、ある動作をそれと明示しないで婉曲(えんきょく)に表現するのに用いる。人間の肉体による基本的な動作をさす場合が多く、中古の仮名文学に多く用いられた
(89-10)「地走(ちそう)」・・馳走。「地」は、「馳」の当て字。用意のためにかけまわる意から)心をこめたもてなし。特に、食事のもてなしをすること。饗応すること。あるじもうけ。接待。また、そのためのおいしい食物。りっぱな料理。ごちそう。
(89-11)「のべて」・・延(の)べて。広げて。「のべて」は、下2動詞「のぶ」の連用形「のべ」+接続助詞「て」。