(16-2)「ベンガラ」・・ポルトガル語Bengalaから。 インドの「ベンガル」で産出したところからいう。黄味を帯びた赤色顔料。酸化第二鉄を主成分とする。安価で着色力・耐久性が強い。塗料・ゴム・油絵の具の顔料、ガラスや金属板の研磨材として用いられる。べにがら。鉄丹。代赭(たいしゃ)。

*「格子に紅殻(ベンガラ)を塗った家もまだ残ってゐる」(大仏次郎『帰郷』)

(16-2)「かほのベンガラのやう成ものにて」・・「かほの」は、語呂がよくない。異本は、「の」を「を」とし、「顔を」に作る。

(16-3)「口の中より物をかひはさみて」・・「口の中より物をかひはさみて」は、いささか、意味が不明。異本は、「口の中より」を「口の中に」に作る。

(16-34)「かひはさみて」・・「かい」は接頭語。掻い挟みて。「かひはさみ」は、「かひはさむ」の連用形。「はひはさむ」は、はさむ。かかえるようにはさむ。

*「長刀(なぎなた)脇にかいはさみ」(『平家物語』11・能登殿最期)

*「子をば死なせたれども、脇にかいはさみて、家にかへりたれば」(『宇治拾遺』)

(16-6)「近国(きんがこく・きんごく)」・・近くの国。隣国。

(16-7)「切(きり)こなして」・・切り熟(こな)して。「切りこなす」は、たくみに所要の形に切る。適宜に切る。

(16-9)「あるひは」・・動詞「あり(有)」の連体形に副助詞「い」および係助詞「は」の付いたもの。連語。

「あるいは…、あるいは…」の形で多く用いられる。同類の事柄の中から一方を選び、または、さまざまな場合を列挙して、主格となる。ある人は。ある事(時)は。

ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の語誌には、

<「或」の漢文訓読語として発生した。漢文では文中に「或」が用いられる場合、「あるひと・あるもの・あるとき」と訓ずることが多いが、副助詞「い」、係助詞「は」を添えて「あるいは」とも訓じた。平安時代初期には「あるいは」は主格として用いられ、また、同類並列や選択を表わす接続詞としては「あるは」が用いられるという使い分けがあった。(中略)現代語で副詞として用いられる場合は、「もしかしたら」「ひょっとすると」などに比べて、かなり事柄の生起する可能性が高い場合に使われる。文末は多く、「かもしれない」「ではないだろうか」「ではないか」「では(=じゃ)」などとなり、「だろう」「らしい」「にちがいない」等は使用しない。また、「もし」や「もしも」が「もし…したら」のように条件節に用いられるのに対し、「あるいは」等にはこのような用法はない。>とある。

(16-10)「女房を交易すとぞ」・・異本は、「女房を」と「交易」の間に「一夜」があり、「女房を一夜交易すとぞ」に作る。

17-1)「アミシツカ」・・玉井幸助校訂『大東亜海漂流譚 船長日記』(育英書院刊 1940)の頭注に、「重吉の口書にはシツカとある。今のアラスカの要港シトカである。アラスカは当時ロシアの領地であった」とある。

 シトカは、アメリカ合衆国、アラスカ州南東部、アレクサンダー諸島中のバラノフ島西岸にある都市。人口88352000)。主産業は漁業で、サケを中心にカニ、ヒラメ、ハマグリがとれるほか、林業、缶詰加工業が盛んである。1799年にロシアのアレクサンダー・バラノフにより町が創設され、1867年までロシアン・アメリカの首都となった。その後、アメリカの統治下に入ってからも、1906年にジュノーに移るまで、アラスカ準州の州都として繁栄した。市内にもロシア統治下時代のおもかげをとどめる建物が目だち、トーテムポールのコレクションで知られるシトカ国立歴史公園は多くの見物客が訪れる。

(17-1)「こみ入(いれ)たる」・・異本は、「こめ」を「込(こ)め」とし、「込(こ)め入れたる」に作る。

(17-2)「取集めて、夫を籠に入」・・異本は、「取集めて」と、「夫を籠に入」の間に「丸めて」があり、「取集めて、丸めて、夫を籠に入」に作る。

(17-10)「天守(てんしゅ)」・・城の中核として縄張の中心部に高くそびえる象徴的な意味をもつ楼閣。日本の天守の場合、戦国時代を経て、十六世紀後半にはでき上がったと考えられる。天主とも書き、天守閣ともいう。天守の起源は明らかでないが、天守の名称は『細川両家記』上の摂津国伊丹城の記事のなかにみられるのが初見で、天文19年(1550)には天守の用語が存在していたことが確かめられる。この天守は、ここで城主が切腹したことから、伊丹城の中核を構成する建物であったと考えられる。この項、ジャパンナレッジ版『国史大辞典』参照。

(18-1)「北極七十度」・・シトカの緯度は、北緯57度。

(18-12)「所所也」・・「所」がふたつあり、重複している。

(18-3)「日も」・・異本は、「日々」に作る。

(18-3)「雰(きり)」・・「霧」とは別に常用漢字になっている。「雰囲気」「雰霧(ふんむ)」など。

 *【雰霧】ふんむ・・きり。「資財己の用を爲さず、名位得て守るべからず。晨霜秋露、霧の氣有り。朝に凝(こ)ると雖も、夕に消ゆ。」(晋・劉『石勒に遺る書』)

(18-4)「初の」・・異本は、「先の」に作る。

(19-1)「入津(いりつ・にゅうしん・にゅうつ)」・・船が港に入ること。入港。

(19-2)「祝義(しゅうぎ)」・・「しゅう」は「祝」の漢音。「祝言(しゅうげん)」など。祝いの儀式。祝典。

(19-8)「たけなは」・・「酣」、「闌」を当てる。ある行為・催事・季節などがもっともさかんに行なわれている時。また、それらしくなっている状態。やや盛りを過ぎて、衰えかけているさまにもいう。最中(さいちゅう)。もなか。まっさかり。語源説に、「ウタゲナカバの約」などがある。

(20-2)「け坊主」・・「けし(芥子)坊主」か。「芥子坊主」は、子供の頭髪で、頭頂だけ毛を残し、まわりを全部そったもの。

(20-6)「何卒(なにとぞ)して」・・「何卒(なにとぞ)」に同じ。手段を尽くそうという意志を表わす。どうぞして。なんとかして。なにとぞして。

*<漢字の話>「何卒(なにとぞ)」の「卒」・・「卒」は、漢音で「ソツ」「シュツ」、呉音で「ソチ」「シュチ」。「卒」は、1字で「とぞ」と読むのではなく、「と・ぞ」の「ぞ」で、漢音の「ソツ」の国訓(当て読み)。代名詞「なに(何)」に助詞「と」と「ぞ」が付いてできたもの。したがって、「何卒」を「なにとぞ」と訓じるのは、「何(なに)と卒(ぞ)」という、いわば、熟字訓といえる。

(20-8)「南京知らぬとこたふる」・・異本は、「南京」の「京」と「知らぬ」の「知」の間に、「人は」があり、「南京人は知らぬと答ふる」に作る。ここは、<南京人は、「知らぬ」と答ふる>が読みやすいか。