(83-1)「扨は」・・事情や状況、また、相手の発言や行動などで、思いあたることのある時に発する語。そう言うところをみると。そんなことをするところから思えば。それでは。
*<漢字の話>「扨」・・国字。『新漢語林』は、解字を、「刄(叉)」+「扌(手)」とし、「叉」は、サ、「手」はテ、合せてサテの音を表すとしている。なお、「扠」は、「さて」と訓じることもあるが、元来は漢字。
(83-1)「いへたるか」・・ヤ行下2動詞「癒(い)ゆ」の連用形は、「癒(い)え」。「いへ」とすれば、終止形は、「癒(い)ふ」だが、どういう表現はない。ここは、「いえたるか」が正しい。
(83-2)「ゆへ」・・故。文語体では、「ゆゑ」で、「ゆへ」とはいわない。しかし、ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の「故」の語源説に、「ユはヨリ(因)の約。ヱはヘ(方)の転」とあるから、「ゆへ」とする用法もあったか。
(83-2)「からき」・・辛き。形容詞「辛(から)し」の連体形。「辛(から)し」は、残酷だ。むごい。ひどい。
(83-2)「せひばひ・・成敗。歴史的仮名遣いでも、「せひばひ」とは書かない。ここは、「せいばい」。
(83-2)「せひばひをし給ひては」・・罪人として仕置きをなされては。
(83-3)「なかなかに」・・かえって。むしろ。
(83-3)「いとほしく」・・形容詞「いとほし」の連用形。「いとほし」は、かわいそうだ。気の毒だ。
(83-3)「なかなかにいとほしくて」・・かえってかわいそうで。
(83-3)「いかで」・・「いかにて」の撥音便化した「いかんて」が変化した語。あとに、意志、推量、願望などの表現を伴って用いる。何とかして。せめて。どうにかして。どうか。
(83-3)「たべ」・・ください。動詞「給(た)ぶ」の命令形。「給(た)ぶ」は、「与ふ」「授(さず)く」の尊敬語で、お与えになる。くださる。
(83-5)「こらして」・・懲らして。過ちを責めて戒めて。
(83-7)「ゆへ」・・ここも、「ゆえ」が正しい用法。
(83-8)「いかで入てたべ」・・なんとかして入れてください。
(83-8)<脱字について>異本は、「たべ」と「きのふ」の間に、「かしと、あながちにいひける事のわりなさに、心ぐるしくは思ひながら座敷へ入れければ」がある。
(83-8)「きのふのよろこびにとて」・・昨日のお礼に来たのだといって。
(83-9)「まして」・・動詞「ます(増)」の連用形に助詞「て」が付いてできたもの。先行する状態よりも程度のはなはだしいさまを表わす語。それ以上に。他のものよりもひどく。今までよりも強く。いっそう。
(83-9)「まして、きのどくに思ひ」・・いよいよ気の毒に思い。
(83-9)「さることにてはなし」・・そんなに心配には及ばない。
(83-11)「いなみ」・・動詞「否(いな)む」の連用形。「否(いな)む」は、承知しないということを表わす。断る。いやがる。辞退する。
(84-1)「悦びてぞ帰りける」<係り結びの法則>・・通常の文は、終止形で結ぶ。ところが、
①「ぞ」「なむ」「や(やは)」「か(かは)」を用いると、その文末は連体形で結ぶ。
②「こそ」を用いると已然形で結ぶ。
テキストの場合、過去の助動詞「けり」の連体形「ける」で結んでいる。
(84-2)「童(わらべ)」・・語成は、「わらわべ」の変化した「わらんべ」の撥音「ん」の無表記から。語源説のひとつに、「その泣き声から、ワアアヘ(部)の義」があるのが、おもしろい。
(84-2)「子共(こども)」・・「ども」は接尾語。ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の語誌に
<(1)元来は「子」の複数を表わす語であり、中古でも現代のような単数を意味する例は確認し得ない。ただ、複数を表わすところから若年層の人々全般を指す用法を生じ、それが単数を表わす意味変化の契機となった。
(2)院政末期には「こども達」という語形が見出され、中世、近世には「こども衆」という語を生じるなど、「大人に対する小児」の用法がいちだんと一般化し、同時に単数を表わすと思われる例が増える。
(3)漢字表記を当てる場合、基本的には上代から室町末期まで「子等」であるが、院政期頃より「子共」を用いることも多くなる。近世に入り、「子供」の表記を生じた。>とある。
(84-3)<変体仮名の話>「わらんべ」の「わ(王)」・・「王」は、現代仮名遣いでは「おう」だが、歴史的仮名遣いでは、「わう」。したがって、「王」を変体仮名の「わ」とするのは、歴史的仮名遣いによる。
(84-3)「何心(なにこころ)なく」・・形容詞「何心なし」の連用形。「何心なし」は、何の深い意図・配慮もない。なにげない。
(84-4~5)<文法の話>「子供が戯れ」の「が」・・「が」は連体格の格助詞で「~の」。「子供の戯れ」
*「君がため春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪はふりつつ」(『古今和歌集』)
*「おらが春」(小林一茶の句集の題名)
(84-5)「ものともおもはで」・・異本は、「ものとも」を「物しとも」としている。「物し」は、「気にさわる。不快である。」だから、異本の方が妥当か。
(84-4)「又の日」・・①次の日。翌日。②別の日。後日。ここでは①か。
(84-8)「からきめをし給ふぞ」・・つらい目にあわせなさるのか。
(84-11)「わきて」・・副詞。動詞「わく(分)」の連用形に、助詞「て」の付いてできた語。特に。格別に。とりわけ。わけて。わいて。
(84-11)「戯言(ざれごと・ざれこと・あきれごと・じゃれごと・たわぶれごと・たわむれごと)」・・
たわむれに言うことば。ふざけて言うことば。冗談。また、たわむれてすること。ふざけてすること。
(85-2)<漢字の話>「鹿」・・
①「鹿」は部首。解字は角のある雄しかの象形。
②「牛」「犬」「羊」「虫」「貝」など、動物が部首になっている。10画以上でも、「馬」「魚」「鳥」「龜(亀)」「鼠」など。架空の動物では「鬼」「龍(竜)」がある。
③殷の紂王(ちゅうおう)が、庭園に酒を満し、枝に肉を懸けて宴を開き、酒池肉林の淫靡な享楽に
ふけったが、その場所が「鹿台」。黄河流域にはたくさんの鹿が生息していた。(阿辻哲次著『部首の話2』中公新書 2006)
④「鹿」部で、常用漢字はふたつだけ。「麗」は、「何頭かのシカが連れ立って移動する様」から、美しいことの意味を表した。もうひとつは、平成22年(1010)に追加された「麓」。
(85-2)「悦(よろこび)」・・お礼。
(85-3)「なべて」・・動詞「なぶ(並)」の連用形に、助詞「て」の付いてできたもの。事柄が同じ程度・状態であるさまを表わす。すべて。総じて。一般に。概して。
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