【北海道立文書館所蔵のふなをさ日記の書誌】

「ふなをさ日記」は、北海道立文書館所蔵図書である(旧記1316)。その書誌(書物の外観・材質・内容成立上特徴を記述したもの。書史)に触れる。表紙の「ふなをさ日記」の下に丸に星印があり、星の中央に「文」とある。これは、北海道道庁の「北海文庫」所蔵図書の印である。

「北海文庫」は、金田吉郎(かねたきちろう)氏の寄贈図書の名前である。金田氏は、明治23(1890)北海道庁属となり、財務部経理課長、檜山爾志久遠奥尻太櫓瀬棚郡長、小樽高島忍路余市古平美国積丹郡長を歴任、明治30年(1897)東京府属に転じた。明治37(1904)東京府南多摩郡長に就任してから、同郡八王子町に「北海文庫」を設立した。氏は、北海道庁に勤務後、北海道に関する図書を蒐集した。氏の「図書献納ヲ御庁ニ願スル理由」(以下「理由書」。『北海文庫図書ノ始末』所収)の中で、「北海道ニ関係アルモノハ新古細大ヲ問ハズ、断管零墨(断簡零墨=だんかんれいぼく。古人の筆跡などで、断片的に残っている不完全な文書。切れ切れになった書きもの=)ヲ撰マズ、極力之ヲ蒐集セリ」と記している。金田氏は、同年55日に北海道庁長官河島醇(かわしまじゅん)に「図書献納之儀ニ付願」を提出している。氏は、前掲「理由書」のなかで、「本年一月、御本庁舎火災ニ罹リ、御保管ノ図書モ多ク灰燼ニ帰シタルト聞ク・・不肖吉郎所蔵ノ図書ヲ御庁ニ献納シ拓殖ノ参考ニ供セントス」と献納の理由を述べている。「本庁舎火災」というのは、明治42111日午後6時過ぎ、北海道庁内印刷所石版部から火災が発生したことをいう。この火災で庁舎屋根裏の文庫にあったすべての文書が焼失した。金田氏が献納した図書は、合計1326点である。明治政府賞勲局は、金田氏の寄附行為に対して銀杯を送っている。

 「ふなをさ日記」は、金田氏の寄贈によるものである。金田氏が、この本をどうようにして蒐集したのかについては、不詳である。

(表紙)「図書票簽(としょひょうせん)」・・表紙の中央に「図書票簽」が貼付されている。「簽(せん)」は、ふだ。「簽」は、竹で作ったので竹部。

 <漢字の話1>古く竹で作った文具・書を表す漢字・・①「符(ふ)」・・両片を合わせて証拠とする竹製のわりふの意味を表す。②筆、③箋(せん)・・戔は薄いの意。うすくひらたい竹・ふだの意。④篇、⑤簡(かん)・・竹をけずり編んで文字を書くふだ。⑥「簿(ぼ)」・・竹を薄くけずったちょうめんの意味を表す。

 <漢字の話2>竹部の漢字・・①「第(だい)」・・順序よく連ねた竹簡の意味から、一般に、順序の意味を表す。②答(トウ。こたえ)・・竹ふだが合うさまから、こたえるの意味を表す。③「等(トウ。ひとしい)」・・「竹+寺」。竹は竹簡(書類)、脚の「寺」は役所の意味。役人が書籍を整理するの意味からひとしい。④「算(さん)」・・「竹+具」。数をかぞえる竹の棒をかぞえるの意味を表す。

(表紙)「舊記(きゅうき)」・・図書票簽の「類名」欄に「舊記」とある。「舊」は、常用漢字「旧」の旧字体。北海道立文書館の「旧記」は、近世後期から明治初期までに成立した北海道関係の地誌・紀行・日記・歴史関係の記録などが2341点所蔵されている。原本に類するものは少ないが、すぐれた写本が多く、その内容の豊富さにおいても、誇りうる集書といえる。本文書はそのひとつである。

 <漢字の話>①「旧」の部首は、多くの漢和辞典では「日」。「舊」の略字として用いられてきたが昭和21年の当用漢字制定当初に「舊」の新字体として選ばれた。

②「舊」の部首は「臼」。

③部首に「隹(ふるとり)」がある。「雀」「雁」「雛」などを含む。この部首を「ふるとり」と呼ぶのは、「舊」に字にもちいられているため。しかし、「舊」は「隹」部ではない。

(表紙)「ふなをさ」・・船頭。現在は「船長(せんちょう)」が一般的に用いられる。

<変体仮名>・・「布」→「ふ」、「那」→「な」、「遠」→「を」、「佐」→「さ」

<漢字の話>「遠」・・「エン」は漢音、「オン」は呉音。変体仮名「遠(を)」の「を」は、呉音から発生した。呉音の例として「遠流(おんる)」「久遠(くおん)」などがある。

<変体仮名>「遠(を)」・・「を」は、仮名文字発明当時、「ウォ」のような発音だった。だから、現在の発音の語頭の「オ」を、歴史的仮名遣いで「を」と書かれたものがある。

*語頭が「を」の例・・尾(を)張、鼻緒(はなを)、甥(をひ)、終(を)へる、雄々(をを)しい、丘(をか)、岡(をか)、可笑(をか)しい、犯(をか)す、拝(をが)む、桶(をけ)、長(をさ)、幼い(をさ)ない、収(をさ)める、叔父(をじ)、伯父(をぢ)、惜(を)しい、教(をし)へる、牡(をす)、夫(をっと)、男(をとこ)、一昨日(をととひ)、少女(をとめ)、囮(をとり)、踊(をど)る、斧(をの)、檻(をり)、折(を)る、居(を)る、終(を)はる、女(をんな)など。

*語頭以外で「を」の例・・青(あを)、功(いさを)、魚(うを)、香(かをり)、鰹(かつを)、竿(さを)、栞(しをり)、萎(しを)れる、十(とを)、益荒男(ますらを)、澪(みを)、操(みさを)、夫婦(めをと)など。

 *<「を」>・・いろは順では第十二位で、定家かなづかいの流では、「端のを」と呼んでいる。一方「お」は、いろは順では第二十七位で、「奥のお」と呼んでいる。

<重たい「を」>・・ワ行の「を」を、関東など、「重たい『を』」と呼ぶ地方がある。

 *<変体仮名の固有名詞を、漢字として扱っている例>「さうせいはし」を「左宇勢以橋」としている。

(表紙)「人(じん)」・・日本の古典籍(こてんせき)、和古書(わこしょ)、和本(わほん)の冊数の数え方の三番目の冊。各冊(巻)に「第一、二 …」などと数字の呼称が与えられている場合が多い。数字以外では通常、「乾・坤(けん・こん)」、「上・中・下(じょう・ちゅう・げ)」、「天・地・人(てん・ち・じん)」、「序・破・急(じょ・は・きゅう)」などが用いられる。

また、「元・亨・利・貞(げん・こう・り・てい)」、「仁・義・礼・智・信(じん・ぎ・れい・ち・しん)」などといった呼称が用いられる。

(1) (表紙)「ふなをさ」・・船頭。

<変体仮名>・・「布」→「ふ」、「那」→「な」、「遠」→「を」、「佐」→「さ」

<漢字の話>「遠」・・「エン」は漢音、「オン」は呉音。変体仮名「遠(を)」の「を」は、呉音から発生した。呉音の例として「遠流(おんる)」「久遠(くおん)」などがある。

<変体仮名>「遠(を)」・・「を」は仮名文字発明当時、「ウォ」のような発音だった。だから、現在の発音の語頭の「オ」を「を」と書かれたものがある。

*語頭が「を」の例・・尾(を)張、鼻緒(はなを)、甥(をひ)、終(を)へる、雄々(をを)しい、丘(をか)、岡(をか)、可笑(をか)しい、犯(をか)す、拝(をが)む、桶(をけ)、長(をさ)、幼い(をさ)ない、収(をさ)める、叔父(をじ)、伯父(をぢ)惜(を)しい、教(をし)へる、牡(をす)、夫(えおっと)、男(をとこ)、一昨日(をととひ)、少女(をとめ)、囮(をとり)、踊(をど)る、斧(をの)、檻(をり)、折(を)る、居(を)る、終(を)はる、女(をんな)など。

*語頭以外で「を」の例・・青(あを)、功(いさを)、魚(うを)、香(かをり)、鰹(かつを)、竿(さを)、栞(しをり)、萎(しを)れる、十(とを)、益荒男(ますらを)、澪(みを)、操(みさを)、夫婦(めをと)など。

 *<重たい「を」>・・ワ行の「を」を、関東など、「重たい『を』」と呼ぶ地方がある。

*<無線局運用規則別表第5号和文通話表(昭和251130日公布)>・・音声通信で通信文の聞き間違いを防ぐために(「オ」と「ヲ」を区別するために)、「大阪の『オ』」「尾張の『ヲ』」と呼ぶことが決められている。ちなみに「ヰ」は、「ゐどのヰ」、「ヱ」は、「かぎのあるヱ」。

 <転音>「船長(ふなをさ)」・・「船(ふね)」が「ふな」と発音することを「転音」という。「船底(ふなぞこ)」「船便(ふなびん)」など。日本語では主として、複合語をつくる際の、前の部分の語末におこる母音の転換をいう。酒(さけ)→酒樽(さかだる)、酒屋(さかや)のたぐい。

(2)「器財(きざい)」・・うつわ。道具。また、家財道具。器材。

(3)「鯱(しゃち・しゃちほこ)」・・国字。

 <漢字の話>「鯱」一字で、「じゅちほこ」と読むことがある。「金の鯱(しゃちほこ)」。なお、「鯱」を「コ」と読んで「金鯱(キンコ)」と読むことがあるが、「コ」は音読みではない。

(3)「六寸五寸」・・「五寸」は「五分」の誤りか。

(4)「一角(いっかく)」・・イッカク科の哺乳類。イルカに類似し、体長約五メートル。

(4)「牛酪(ぎゅうらく)」・・牛乳の脂肪質を固めたもの。バター。

続きを読む