(50-3)「相対(あいたい)」:合意すること。相談のうえ、互いに納得して事を行なうこと。あいたいずく。
*相対死(あいたいじに)は、江戸時代の法律用語。心中、情死のこと。心中が、近松などの戯曲により著しく美化され、元祿頃から流行する傾向にあって、風俗退廃の大きな原因となったため、八代将軍吉宗が心中に代えて使わせた語。
(50-4)「与者(とは)」:格助詞「と」に、係助詞「は」が付いたもの。説明・思考・知覚などの対象やその内容を取り立てていうのに用いる。
*「与」を「と」と読むのは、漢文訓読の用法。変体仮名ではない。変体仮名では「よ」の字源。
*「と(与)」の語法
①並列。
(ア)および。「…与レ~(…と~と)」の形で同等に結ぶ。
例「堯乃賜二舜絺衣与一レ琴」
<堯(ぎょう)すなわち舜(しゅん)に絺衣(ちい)と琴(きん)とを賜(たま)う」(そこで尭は舜に上等な葛布の衣と琴とを与えた)〈史記・五帝本紀〉
(イ)従属。…と一緒に。つれだって。…と。…に。「与レ…(…と・…とともに)」の形で動作にしたがう対象を示す。
例「項梁殺レ人、与レ籍避二仇於呉中一」
<項梁(こうりょう)人を殺し、籍(せき)とともに仇(あだ)を呉中(ごちゅう)に避(さ)く>
(項梁は人を殺し、籍とともに仕返しを避けるため呉中に逃れた)〈史記・項羽本紀〉
(ウ)対象。…と。…に。「与レ…(…と・…に)」の形で動作の対象を示す。
例「与二項羽一別而至二高陽一」
<項羽(こうう)と別れて高陽(こうよう)に至る>
(項羽と別行動をとって高陽に到着した)〈史記・酈生(れきせい)列伝〉
▼対象が文脈により省略された場合は「ともに」と訓読する。
例「豎子不レ足二与謀一」
<豎子(じゅし)はともに謀るに足らず>
豎子豎子(小僧は話し相手にならぬわ)〈史記・項羽本紀〉
(50-5)「候節」の「節」:決まり字。
(50-6)「兼々」の「兼」:決まり字。脚部が「灬」(れっか)のようになる場合がある。
(50-8)「停止(ていし・ちょうじ)」:「停」を「ちょう」と読むことについて、ジャ『日本国語大辞典』は「呉音」とし、『漢辞海』『漢語林』は慣用音とする。
*慣用音:呉音、漢音、唐音には属さないが、わが国でひろく一般的に使われている漢字の音。たとえば、「消耗」の「耗(こう)」を「もう」、「運輸」の「輸(しゅ)」を「ゆ」、「堪能」の「堪(かん)」を「たん」、「立案」の「立(りゅう=りふ)」を「りつ」、「雑誌」の「雑(ぞう=ざふ)」を「ざつ」と読むなど。慣用読み。
(50-8)「停止之所」の「所」:決まり字。偏の「戸」は、「ニンベン」のように見え、旁の「斤」は「石」のように見える。
(50-8)「改(あらた)め」:調べただすこと。江戸時代、公儀の役人が罪科の有無、罪人・違反者の有無などを吟味し取り調べること。取り調べ。吟味。
(50・2-1)「不束(ふつつか)」:江戸時代、吟味筋(刑事裁判)の審理が終わり、被疑者に出させる犯罪事実を認める旨の吟味詰(つま)りの口書の末尾の詰文言の一つで、叱り、急度叱り、手鎖、過料などの軽い刑に当たる罪の場合には「不束之旨吟味受、可申立様無御座候」のように詰めた。
*聞訟秘鑑‐一口書詰文言之事(古事類苑・法律部三一)「御叱り、急度御叱り、手鎖、過料等に可成と見込之分は、不束或は不埒と認、所払、追放等にも可成者は、不届之旨と認」
*「不束」は当て字。本来、「太し」と関係のある語で、太い様子や、太くて見苦しい様子をいう。さらに、細かい配慮に欠ける様子をもいい、否定的であるところから、「不」の字を当て字に用いるようになる。(ジャパンナレッジ版『小学館全文全訳古語辞典』)
(50・2-1)「過料(かりょう)」:江戸時代の刑罰の一種。銭貨を納めて罪科をつぐなわせたもの。軽過料、重過料、応分過料、村過料などの種別があった。
*徳川禁令考‐別巻・棠蔭秘鑑・「享保三年極一、過料三貫文、五貫文。但、重きは拾貫文、又は、弐拾両、三拾両、其者之身上に順ひ、或村高に応じ、員数相定、三日之内為納候、尤、至而軽き身上に而過料差出かたきものは、手鎖」
(50・2-1)「銭(せん・ぜに)」:金銭。硬貨。
*九十六(くじゅうろく)の銭百(ぜにひゃく):江戸時代、銭九十六文を百文として計算したこと。転じて、すこし足りないことのたとえ。
(50・2-1)「貫文(せん・さんかんもん)」:貫。銭を数える単位。一文銭1,000枚を一貫とする。江戸幕府は、寛永通宝(一文銭)を鋳造するようになってから、銭と金の比価を四貫文対一両と公定した。
*「三貫文」の「貫」:決まり字。冠部が「丑」、脚部の「貝」が繰り返し記号のように見える。
(50・2-2)「手鎖(てじょう)」:「錠」「鎖」は当て字。罪人の手に施す刑具。鉄製瓢箪型で、両手にはめて錠をかけ、手が使えないようにするもの。てがね。てぐさり。江戸時代、未決囚を拘留する方法。手鎖をかけた上、公事宿、町村役人などに預け、逃亡を防いだ。
(50・2-2)「宿預ケ(やどあずけ)」:江戸時代、未決囚拘禁の方法の一つ。出府した被疑者を、取調べ期間中公事宿(くじやど=江戸宿)に預けること。手鎖(てじょう)、過料、叱(しかり)など軽い罪にあたるものに用いられた方法で、重罪のものは入牢させた。
(50・2-3)「憐愍(れんびん)」:あわれむこと。なさけをかけること。あわれみ。れんみん。
(50・2-5)「加州」:加賀国。
*影印の「州」は、異体字「
(50・2-10)「初而(はじめて)」の「初」:旁の「刀」が「百」のように見える。
(50・2-10)「当所」の「当」:脚部が「舟」「丹」のように見える。
(50・2-10)「入津(にゅうしん・にゅうつ・にゅうづ)」:「津」を「つ」と読むのは、訓読み。「入津」を「にゅう・つ」と読むのは重箱読み。
*和語で、海岸・河口・川の渡し場などの、船舶の停泊するところを「つ」といったが、漢字伝来で、「津(しん)」が「つ」と同じ意味であることから、「津(シン)」に「つ」を当てた。「津波(つ・なみ)」「津々浦々(つつ・うらうら)」など。
(51-1)「法度(はっと)」:おきて。さだめ。法律。法。
*「はっ」「はっ」は、慣用音(漢字音の呉音、漢音、唐音には属さないが、わが国でひろく一般的に使われている漢字の音)。「法被(はっぴ)」「法華(ほっけ)」「法主(ほっす)」など。
*『漢辞海』には<「ホッ」「ハッ」の音は、日本語になじまない「ホフ」「ハフ」の発音を避けて促音化したもの。>とある。
(51-2)「等閑(とうかん・なおざり)」:深く心にとめないさま。本気でないさま。いいかげん。通りいっぺん。かりそめ。
*ジャパンナレッジ『日本国語大辞典』の補注に<中古では「源氏物語」に多く見え、用法としては主に男性の女性に対する性情や行動への評価として現われている。>とある。
*「等閑」を「なおざり」と読むのは、熟字訓。漢語の同義の熟語「等閑(とうかん)」に和語の「なおざり」を当てたもの。
*熟字訓:漢字二字、三字などの熟字を訓読すること。また、その訓。昨日(きのう)、乳母(うば)、大人(おとな)、五月雨(さみだれ)など。
(51-3)「差置(さしおき)」:「差置く」は、そのままにしておく。放っておく。「さし」は接頭語。
続きを読む