煤払ひ神官畳めった打ち 林徹(はやし-てつ)

 

神仏に仕える者は、生き物を慈しみ、殺生などはしない。生き物ばかりでなく、万物を大切に扱う。もちろん、暴力などしない。ところが、煤払いは、別だ。神官や氏子も集まって、本殿の大広間に敷かれた畳を篠竹で、1年のほこりをたたき出す。「めった打ち」だから、なまはんかな打ち方ではない。孫に揚句を聞かせたら、「ストレスの解消になるかもね」との感想。

煤払いは、煤掃き、煤取り、煤納めともいい、古くは師走の13日に行われた年末恒例の行事。煤は、物が燃える際に、煙とともに出る黒い炭素の微粒子。昔は、燃料といえば、炭や薪だったから、煤払いは欠かせなかったが、殊にお正月を迎える準備のこの時期の煤払いは、単に衛生上のためではなく、すべてを清める宗教的な行事でもあった。

 畳を叩いてほこりを出すことは、私は、2枚の畳を三角状に持たせかけて、竹で叩いた記憶がある。畳を揚げると、隙間から、硬貨が出てきて、人に見られないように、こっそりポケットにしまったことも思い出す。ことわざに、「煤掃きに出る」というのがあるが、転じて、「ほおって置いてもなんとかなる」の意となる。
作者の林徹は、1929(大正15)年生まれで、2008(平成20)年、大腸ガンで死去した。享年82.金沢、浜松、広島の鉄道病院に勤務した耳鼻咽喉科の医師。