古垣の縄ほろと落つ蕗の薹 室生犀星

 

早春に、葉の伸出より先に花茎が伸び出す。これを蕗の薹(フキノトウ)と呼んでいる。雌雄異花であり、雌花は受粉後、花茎を伸ばし、タンポポのような綿毛をつけた種子を飛ばす。漢字で「款冬」を充てる場合もある。周りの雪を溶かして芽生えるエネルギーは素晴らしい。古い土塀に芽生えたフキノトウは、その上に乗っていた縄を持ち上げ動かす。やがて、垣根から、縄を落とす。犀星は、その瞬間を「ほろと」と形容する。虚子の句に「乾きたる垣根の土や蕗の薹」がある。

春の季語だが、大寒の初候に「款冬華(かんとうはなさく)」がある。こちらは、真冬に、すでに、芽生えることをいう。