(13-3)「助(たすく)る」・・下1動詞「助(たす)く」の連体形「助(たすく)る」。

 *「天は自ら助(たす)くるものを助(たす)く」(サミュエル・スマイルズ著『自助論』=明治3年、中村正直の邦訳=)

(13-6)「さるわざ」・・そのような作業。ここでは、救助のため、橋舟を海中に投げ入れること。

(13-6)「所へも至らず」・・異本は、「備へも至らず」、「暇もなく」に作る。

(13-8)「何国(いずく)」・・異本は、ひらがなで、「いつく」、「いづく」に作る。

(13-9)「州」の異体字・・資料1(柏書房刊『異体字解読字典』)

(13-9)「横須賀」・・現静岡県掛川市横須賀。北側の田浦(たうら)村・長浦(ながうら)村の港地帯とともに良港の地形をなす。天正6年(1578)徳川家康の命を受けた大須賀康高が横須賀城を築城。のち豊臣系大名の渡瀬繁詮・有馬豊氏が城主となるが、慶長6年(1601)大須賀康高の子忠政(大須賀松平家)が再び入封、横須賀藩主となった。以後藩主はめまぐるしく交替するが、天和2年(1682)の西尾忠成入封後は西尾家が幕末まで藩主を勤めた。

(13-9)「かけつか」・・掛塚。現静岡県磐田市掛塚。天竜川河口左岸の集落。天竜川池田(いけだ)の渡船では大助船役郷として高瀬船七艘を勤めた。

(13-9)「夫(それ)に弁(わきま)へず」・・異本は、「夫に」ではなく、「更に」「さらに」に作る。

(13-910)「せんすべなく」・・詮すべなく。なすべき方法がなく。  ↓ 資料2

(13-9)「船中一同にはらひ」・・異本は、「一同に」と「はらひ」の間に「髪を」がある。本影印は、「髪を」を欠か。「髪をはらう」とは、髪を切払らって神仏に祈願すること。『日本庶民生活史料集成第5巻』(三一書房)の「漂流註記」には、「髪を切って神仏に祈願することが、危機に際しての船乗りのなすべきことの一つとなっていたから、御城米積船のように幕府の監督のきびしい場合は、難船しながら髪を切っていないとなると、後日の取調べの際、大切な御城米を積んでいるのに万全を尽くさず不心得であると追及を受けた。したが

って、髪を切ることは、信仰もさることながら、誠意のあかしとして後々のためにも必要だった」とある。写真(資料2)は、青森県深浦町の円覚寺にある髷額(国指定重要民俗文化財)

(13-10)「伊勢太神宮」・・伊勢神宮のこと。伊勢神宮は、三重県伊勢市にある皇大神宮(内宮)と豊受大神宮(外宮)の総称。内宮は皇祖神である天照大神をまつり、神体は三種の神器の一つである八咫(やたの)鏡。白木造りで、二〇年ごとに遷宮を伴う改築がある。明治以後国家神道の中心として国により維持されてきたが、昭和21年(1946)宗教法人となった。伊勢大廟。伊勢大神宮。大神宮。

(13-10)「心願(しんがん)」・・神仏などに、心の中でかける願。また、心からの願望。念願。

(13-11)「紙鬮(かみくじ)」・・神鬮(みくじ)。江戸時代、船乗らが、荒天などで船の針路を見失ったり、判断に迷ったりした場合に行なったくじ。「鬮」の部首は「鬥(とうがまえ、かかたいがまえ)」で総画数26画。

(14-2)「本朝(ほんちょう)」・・わが国の朝廷。転じて、わが国。

(14-2)「さるわざ」・・そのような方法。ここでは、磁石や天文を使って地理を知る事。

(14-4)「神勅(しんちょく)」・・神のおつげ。

(14-5)「四方一寸」・・異本は、「一寸四方」に作る。

(14-67)「一万度(いちまんど)の御祓(おはらい)」・・祓の詞を神前で一万度奏して、罪を祓い清めること。

(15-1)「いらご崎」・・伊良湖崎。愛知県渥美半島先端の岬。所在は、愛知県田原市伊良湖(いらご)。伊良湖水道を隔てて志摩半島に対し、太平洋から伊勢湾を分ける。三河湾国定公園の一中心。

(15-12)「伊勢の湊」・・異本の注には、「鳥羽にことであろう」とある。

(15-2)「湊入(みなといり)の火」・・江戸時代、船乗りの間で信仰された、暗夜に船を導くという火。夜間針路を見失ったとき、伊勢太神宮を祈願すると、港のある方角に二つの火が見え、それに磁石をあてて方角を定めると、たちまち火は消えるという。

(15-8)「かくのごとくとぞ」・・異本は、「かくのごとくなりとぞ」に作る。「ごとく」と「とぞ」の間に「なり」が欠か。

(15-9)「酉戌(とるいぬ)の方」・・西北西。

(15-910)「方角をつなぐ」・・方角を定める。

(15-10)「戌亥(いぬい)」・・西北。

(15-10)「戌亥の方へ廻り」・・異本は、「風戌亥の方へ廻り」に作り、「戌亥」の前に、「風」がある。異本の方が、意が通じる。本影印は、「風」が欠か。

(16-1)「戻さるる」<漢字の話>「戾」・・影印は、旧字体の「戾」で、「戸」+「犬」。解字は、「戸口にいる犬の意味」(『漢語林』)、「戸の下に犠牲の犬を埋めて呪禁(じゅきん)とすることをいう。ここを犯すことは罪とされた」(『新潮日本語漢字辞典』)。

<常用漢字に採用され、「犬」の点が取れて、「大」になった漢字の例>

①「突(とつ)」の旧字体の脚も「犬」。解字も「あなから、犬が出しぬけに飛び出すさま」(『漢語林』)

②「(におい、くさい)」・・解字は、「自」ははなの象形。犬は、鼻のはたらきのよい犬の意味。におい、においをかぐの意味を表す。「嗅ぐ」の「嗅」は、常用漢字ではないので、「犬」のまま。

<常用漢字に採用されても「犬」のままの漢字の例>

①「(ふ)す」・・「人」+「犬」で、飼い主のあとに犬がぴたりとつき随っていくさまを示す。からだや頭がぴたりと地にふせる、ぴったりと寄り添うなどの意を含む。

②「(だま)る」・・「犬」+「黒」で、「黒」は、ものの動きがないの意味。犬がおしだまって人についていくさまから、だまるの意味を表す。

③「(けん)」・・左の旧字は、「こしき(頭部が虎の形をした器)」で、その器に血を塗るたねのいけにえの意味。神聖化されたこしきのさまから、神に物をささげる意味をあらわす。常用漢字の「献」は、俗字。

<常用漢字に採用されないので、「犬」のままの漢字の例>

①「吠(ほ)える」・・「口」+「犬」で、犬がほえるの意味を表す。

②「(な)く」・・「口二つ+犬」で、大声でなくこと。犬は大声でなくものの代表で、口二つは、やかましいの意を示す。

(16-3)「立(たち)さわぎ」・・「立(たち)」は、接頭語。「さわぐ」は、風、波、草木などがざわざわと音をたてて動くこと。

(16-4)「いわんかたなし」・・形容詞。「ん」は推量の助動詞「む」の連体形。何とも言いようがない。たとえようもない。

(16-7)「橋船を捨んといふ」・・異本は、「端船を捨んと皆々はいふ」に作る。本影印は、「皆々は」がない。

(16-8)「はしぶね」・・<変体仮名>「者(は)之(し)婦(ぶ)年(ねん)」。「ね(年)」のくずし字は資料3

資料3 「年(ね)」のくずし字(思文閣刊『くずし字辞典』)