(5-1)「切(きれ)」・・動詞「きれる(切)」の連用形の名詞化。布帛(ふはく)の切れ端。また、広く反物(たんもの)、織物をもいう。

(5-34)「重吉が右の手」・・「重吉が」の「が」は連体格の格助詞。「~の」。ここでは、「重吉の右の手」。

(5-5)「曲(きょく)ろく」・・僧家で用いる椅子。主として僧が法会などで用いる。背のよりかかりを丸く曲げ、四本の脚は牀几(しょうぎ)のようにX型に作ってあるもの。全体を朱または黒の漆で塗り、金具の装飾を施す。曲木(きょくもく)。

(5-7)「沙汰(さた)」・・報知。報告。通知。消息。たより。また、吹聴すること。「沙」はすな、「汰」はえらび分けるの意で、語源説に「沙(すな)を水で淘(ゆ)り、沙金をえりわける意が転じたもの」がある。

(5-8)「地走(ちそう)」・・馳走。「地」は「馳」の当て字。「馳走」は、(用意のためにかけまわる意から)心をこめたもてなし。特に、食事のもてなしをすること。饗応すること。あるじもうけ。接待。また、そのためのおいしい食物。りっぱな料理。ごちそう。

(5-11)「入(いる)れば」・・下2動詞「入(い)る」の已然形「入(いる)れ」+接続助詞「ば」。

(6-1)「えもいはぬ」・・なんとも言えずよい。言いようもなくすばらしい。積極的、肯定的な意を含めていう。

(6-1)「待遠(まちどお)に」・・待ち遠しく。形容動詞「待遠なり」の連用形「待遠に」。

(6-1)「めり」・・推定の助動詞。用言・助動詞の終止形に付く。ただし、ラ変型活用をする語には通例ラ行の語尾を脱した形に付く。目前の情況から判断・推量することを示す。…と見える。…と見うける。見たところ…と思われる。

(6-2)「沙汰(さた)」・・(「沙」はすな、「汰」はえらび分けるの意)元来は、水中でゆすって砂の中から砂金や米などをえり分けること。転じて、物、人物の精粗をえり分けること。物事の是非をえらび分けて正しく処理すること。始末すること。処置すること。多くは、政治上の処理。政務のとりさばきを意味する。

(6-3)「体(てい)」・・(接尾語的に用いて)そのようなもの。そのような様子。風(ふう)。風体。ふぜい。

 *<漢字の話>

①「体」を「てい」と訓じる場合・・「テイ」は漢音。「体裁(ていさい)」「風体(ふうてい)」「世間体(せけんてい)」「面体(めんてい)」「為体(ていたらく)」「這(ほ)う這(ほ)うの体(てい)」「有(あ)り体(てい)」「然(さ)らぬ体(てい)」など。

②「体」、「躰」、「軆」・・①影印の「躰」は、「体(軆)」の俗字。②『新潮日本語漢字辞典』の「体」の項には、<もと「軆」と「体」は別字。当用漢字表で「軆」の新字体として「体」が選ばれたため、両者の字形に区別がなくなった。>とある。また、『漢語林』には、<「体」は、古くから「軆」の俗字として用いられた。>とある。

(6-3)「そこかしこ」・・あちらこちら。漢字では「其処彼処」をあてる。「ここかしこ」は、「此所彼処」。ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の親見出し「かしこ」の語誌に

 <「かしこ」は平安時代になって発生した語で、上代には見えない。上代の中称・遠称代名詞「そこ」が平安時代になって中称にだけ使用されるようになり、遠称にはあらたに「かしこ」を用いるようになった。>

とある。

(6-4)「ありく」・・動き回る。ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の「あるく」の語誌に、

 <上代には、「あるく」の確例はあるが「ありく」の確例はない。それが中古になると、「あるく」の例は見出しがたく、和文にも訓読文にも「ありく」が用いられるようになる。しかし、中古末から再び「あるく」が現われ、しばらく併用される。中世では、「あるく」が口語として勢力を増し、それにつれて、「ありく」は次第に文語化し、意味・用法も狭くなって、近世後期にはほとんど使われなくなる。>とある。

 また、「あるく」の語誌には、

 <類義語「あゆむ」は一歩一歩の足取りに焦点をあてた語であるが、「あるく」「ありく」は足取りを超えて歩行移動全体に焦点が及ぶ。したがって、徒歩でなく、車に乗って移動するような場合にも用いられる。また、「あゆむ」が目標を定めた確実な進行であるのに対し、「あるく」「ありく」は散漫で拡散的な移動を表わすという違いも認められる。>とある。

(6-5)「陸(くが)」・・影印は、「陸」に「くが」とルビがある。ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の「陸(くが)」の語誌に

(1)水部に対する陸部を表わす語には、「やま・をか」などもあるが、それらは平地部分とも対になる。一方、「くが」は平地とは対にならず、水部に対する語であり、後には(2)のように海路・水路に対する陸路をさすようにもなる。

(2)語形としては「クムガ」(書陵部本名義抄・色葉字類抄)、「クヌガ」(日本書紀古訓)、「クニガ」(改正増補和英語林集成)などがあり一定しない。語源的には「国(クニ)処(カ)」ともいわれるが、そうだとすると、日本書紀古訓の「クヌガ」は「クヌチ(国内)」などとの類推から作られた語形である可能性もある>とある。

(6-8)「とりどり」・・漢字は、「取取」を当てる。思い思い。それぞれ。まちまち。いろいろ。語源説に「一人一人の略か」(ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』)とある。

(7-3)「畜生道(ちくしょうどう)」・・仏語。六道(すべての衆生が生前の業因によって生死を繰り返す六つの迷いの世界。すなわち、地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人間・天上)の一つ。悪業の報いによって導かれた畜生の世界、またはその生存の状態。畜生。畜生界。畜趣。「畜生(ちくしょう)」は、(人に飼養されて生きているものの意から)禽獣・虫魚などの総称。

(7-3)「落歟」・・異本は、「落ちたるか」につくる。

 *<漢字の話>「歟」・・

①「か」。「や」とも読む。句末に用いて疑問・反語・推量・感嘆の意を表す助字。

②変体仮名にもある。(『くずし字用例辞典』P1250下段)「歟」を助詞の「か」の意味で、かなにしないで漢字のまま使用している例もある。「渠は目下誰かの縁談に就いて、配慮しつつあるのではない」(泉鏡花『婦系図』)

③「」の部首・・部首は「欠」で、「あくび」と呼ぶ。当て字の「欠伸」から。なお、旁(つくり)になったときは、「けんづくり」と呼ぶ。「欠」の漢音「ケン」から。

(8-3)「〽」・・庵(いおり)点。
(8-3)「ノウハイスハンヤ」・・現メキシコのこと。メキシコは、1519年にキューバから侵入してきたフェルナンド=コルテスの軍隊によって滅ぼされ、スペインのヌエバ=エスパニャ(メキシコ)副王領となった。植民地時代は銀山の開発と農牧業の発展によって栄えたが、1810年のミゲル==イダルゴの反乱に端を発して独立運動がおこり、21年にスペインから分離独立し、短い帝政時代を経て、24年連邦共和国になった。

  日本では、「濃毘数般(ノビスパン)」を当てた。近世初頭、当時イスパニアの植民地であったメキシコをヌエバ・エスパーニャNueva España(新イスパニアの意)と称したのを日本人が訛って用いた呼称。別添『ふなをさ日記 人』所収の「地球略図」参照。

(8-4)「足合(あしあわ)せ」・・反対側。

(8-4)「諳乂利亜(アンケリア)」・・ラテン語(Anglia )。近世の学者が用いたイギリスの呼び名。イギリス。

*「アンゲルア〈又云、アンゲリヤ〈略〉和呼、インゲランド〉漢乂刺亜又作、諳厄利亜」(『采覧異言』17

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(8-5) 欧邏巴(ヱウロツパ)・・ヨーロッパ。ポルトガル語の「Europa」から、古くは「エウロッパ」「エウラウハ」など

と表記し、その「エウ」を「ヨー」と発音したもの。

 *<漢字の話>「邏」・・「邏」を含む熟語で、「邏卒(らそつ)」がある。明治の初め、各府県に置き、警察

事務に従事させた職。明治6年(1873)取締組、捕亡吏などとともにすべて番人と改称し、同七年等外吏に准じ、同88年(1875)、ふたたび旧名に復し、同年巡査と改称された。

 *<江戸初期の半濁音の表示法の実態>

 ①「欧邏巴」の傍注に「ヱウロツパ」とある。「パピプペプ」の「パ」は、「半濁音」という。(ちなみに「バビ

ブベボ」は「濁音」という)

②「パ」の右方の小さな「。」を「半濁音符」という。

③今日の半濁音符「。」
(8-7)「おをやけ」・・公。官。

(8-9)「切手(きって)」・・江戸時代の通行(往来)手形。関所手形。 

(8-9)「左は」・・異本は、かなで「されば」に作る。

(9-1)「イスハニア」・・イスパニア。元来は、ローマ人が用いたイベリア半島の呼称で、現在のスペイン語のEspaa、フランス語のEspagne、英語のSpainはこれに由来する。紀元前8世紀ごろに渡来したギリシア人は、同半島をイベリアIberiaとよんだ。ついで前3世紀末に第二次ポエニ戦争の過程で半島に介入したローマ人は、この呼称を継承せず、かわって「イスパニア」という名を用いた。前200年ごろの文書に初めてみられるこの呼称は、ローマ人に敵対したカルタゴ人のi-sephan-in(ウサギのいる海岸、または島)に由来するとされる。「イスパニア」は、ローマ時代と西ゴート時代を通して半島全域の名称として定着した。

(9-1)「より」・・格助詞。動作・作用の手段・方法を表す。…によって。ここでは、「イスハニア国によって」。

(9-3)「暖国(だんこく・だんごく)」・・気候のあたたかい国、または地方。

(9-3)<漢字の話>「才」と「歳」・・①年齢を数える語としえは、「歳」が正しい。俗に「歳」の略字として用いる。②「才」は、小学校2年で学ぶ教育漢字。「歳」は、常用漢字。

(9-4)「一腹(いっぷく、ひとっぱら、ひとつはら)」・・生まれが、同じ母親からであること。また、その兄弟姉妹。同母の兄弟姉妹。同腹。

(9-10)「あまたゝび」・・漢字では、「数多度」を当てる。多くの回数。何度も。たびたび。

(10-1)「亥子(い・ね)」・・北北東。

(10-2)「寅時(とらどき)」・・午前4時頃。

(10-2)「*(列+火)敷(はげしく)」・・影印は、「烈」の異体字。

 *<漢字の話>「烈」の部首・・「火」の部。脚になったとき、「灬」の形になり、「れっか」「れんが」と呼ぶ。「れっか」は、「列火」と書き、点のならんだ火の意。「れんが」は、「連火」と書き、点の連なった火の意。

(10-3)「終(つい)に」・・最後に、とうとう。ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の「ついに」の語誌は、

 同訓異字として【終・遂・了・卒・竟】をあげ、

【終】(シュウ)おわり。おしまい。最後。「最終」「臨終」おわる。完了する。おえる。果てる。「終了」「終止」 おわりまで。いつまでも。「終日」「終生」 おしまいに。とうとう。結局。《古つひに・をはる・をへたり・をはり・きはまる・しぬ・はて・ともし》

【遂】(スイ)おして行く。とげる。なしとげる。おえる。きわめる。「遂行」「完遂」 かくして。その結果。はては。結局。《古つひに・をはる・とぐ・とぐる・とげぬ・つくす・いたる・とどむ・はたす・はたる・とほる・おふ・したがふ・ゆく・すすむ・なす・よる・やしなふ・あまねし・ひさし》

【了】(リョウ)さとる。あきらか。「了解」「了然」 おわる。おえる。おわり。「終了」「完了」 おしまいに。とうとう。結局。また、過去・完了を表わす助字。《古つひに・をはる・やむ・さとる・あきらか》

【卒】(ソツ)おわる。おえる。完了する。しとげる。「卒業」 死ぬ。「卒去」「卒年」 にわか。突然。あわただしい。「卒爾」「卒倒」おしまいに。とうとう。結局。《古つひに・をはる・やむ・しぬ・うす・ことごとく・すでに・にはか・にはかに・したがふ・つくる・とる》

【竟】(キョウ)おわる。おえる。つきる。きわめる。おわり。「竟宴」「終竟」とうとう。結局。最終的に。「畢竟」「究竟」《古つひに・をふ・をはる・きはむ・わたる》>と記している。

(10-4)「つくづく」・・思考や感情についていい、主観的に動かしがたくなった、という気持を表わす語。心から。

(10-5)「棹(さお)の折(おれ)たる船人(ふなびと)」・・難破した人。つまり、重吉たちのこと。

(10-5)「乗(の)したる故(ゆえ)」・・「乗したる」は、語調がよくない。異本は、「乗たる」に作り、「乗し」の、「し」がない。

(10-8)「上り登たれば」・・語調がよくない。異本は、「上り」を「上へ」とし、「上へ登りたれば」に作る。