(88-1)「重吉、書付たる一さつ」・・重吉が帰国後、板行した『ヲロシヤノ言』をさすと思われる。

(88-12)「天地山川(せんちさんせん)」・・天と地、山と川。つまり自然全体をいう。

(88-2)「人倫(じんりん)」・・ひと。人々。人類。特定の個人や集団ではなく、人間一般をいう。

 なお、テキスト影印の「リン」は、「ニンベン」より、「リッシンベン」に近いが、「忄」+「侖」の字はない。ここは好意的に「倫」とする。

(88-2)「生(しょう)る〔い〕」・・影印は、「生る」だけで、「い」が脱か。

(88-2)<漢字の話>「衣喰」の「喰」・・テキスト影印の「衣喰」の読みは、「イショク」が妥当か。しかし、「喰」に「ショク」という字音はない。『新潮日本語漢字辞典』は「喰」を国字として「くう・くらう・たべる」などの日本語読みはあるが、漢語風の読みはない。なお、『康煕字典』には、同字があるが、字音は「サン」。テキストの場合、「喰」を「食(しょく)」の当て字として、使用していると思われる。異本は、「衣食」として「喰」は使っていない。

(88-2)「器財(きざい)」・・うつわ。道具。また、家財道具。器材。

(88-2)「わかちて」・・分類して。

(88-3)<文法の話>「うつしおかまじ」・・この用法は二重の意味で誤り。

①打消の助動詞「まじ」は、終止形(ラ変動詞には連体形)に接続するから、「うつしおかまじ」という用法は誤り。「うつしおくまじ」が正しい。しかし、それは、文意のそぐわない。

②異本は、「うつしおかまし」と、打消の「まじ」ではなく、推量の助動詞「まし」になっている。

「まし」は未然形に接続するから、「うつしおかまし」なら正しい。

③文意も「写し置こう」ということだから、②が正しい。

(88-4)「一体(いったい)」・・そもそも。おしなべて。一般に。

(88-4)「遣ひさま」・・遣い方。「さま」は接尾語。後世は「ざま」とも。動詞に付いて、そういう動作のしかたを表わす。方(かた)。様(よう)。ぶり。

(88-5)<くずし字>「書付がたきが多く」・・       下は『これでわかる仮名の成り立ち』

「がたきが」の変体仮名は「可・多・支・可」。     (茨木正子編 友月書房刊)より

 *<変体仮名「支(き)」・・右の表参照。

 *<漢字の話>「支(き)」・・①手元の漢和字典に「支」を「キ」とするものはない。

  ②万葉仮名(甲類)に「き」がある。

  ③古代中国字音が「キ」に近かったとされる。  (『新潮日本語漢字字典』)

  ④「支」の部首・・「支」は部首。部首名は、「じゅうまた」「しにょう」「えだにょう」とも。「しにょう(繞)」と「繞」の名を持つが、その例は、「翅」のみ。

(88-9)「末つかた」・・「つ」は「の」の意。ある期間の終わりのころ。月や季節などの終わりのころ。末のころ。「つ」は、奈良時代に使われた格助詞。平安時代以降は、「天つ風」「沖つ白波」のように、複合語として慣用的にだけ用いられた。現在では、「まつげ(目つ毛)」「やつこ(家つ子)」「わたつみ(海神)」に一語の中に化石的に残っているにすぎない。

(88-910)「六人の日本人」・・督乗丸の船頭・重吉と水主の音吉、半兵衛、薩摩の永寿丸の漂民で船頭の喜三左衛門、水主の角次、佐助の六人。

(88-10)「フツヱトル」・・セント・パーヴェル号。

(88-10)<くずし字>「用意」の「用」・・1画目が点か、省略されているようになる場合が多い。

(89-3)「スレス」・・ワシリー・スレドニー船長。

(89-3)「イキリスの船頭ベケツ」・・イギリス船フォレスタ号の船長ピケット。

(89-3)「筆者(ものかき)ベネツ」・・フォレスタ号の書記ベネツ。

(89-4)「扨(さて)」・・文脈上すでに存する事物・事態をうけ、これと並行して存する他の事物・事態に話を転じる。一方では。他方。ところで。

(89-4)<略字(異体字)>「薩摩」の「广」・・「广」は、「摩」の略字。

(89-4)「便船(びんせん)」・・便乗すべき船。都合よく自分を乗せて出る船。また

乗る人。

(89-7)「カワンより」・・異本は、「カワン」を「ガワン」とし、そのあとに「みなとの事也」と割注がある。また、「オロシヤノ言」には、「湊の事 ガアハン」とある。

(89-7)「午未(うまひつじ)」・・ほぼ南南西。

(89-8)「亀崎(かめざき)」・・知多半島東岸の漁村で港町。現愛知県半田市亀崎。

(89-9)「いかにせましと」・・どうしようかと。「せまし」の組成は、サ変動詞「す(為)」の未然形「せ」+推量の助動詞「まし」の連体形「まし」。

(89-10)「ゆへ」・・「由」の歴史的仮名遣いは、「ゆゑ」。

(89-11)「渡り」・・辺り。ある場所の、そこを含めた付近。また、そこを漠然とさし示していう。その辺一帯。あたり。ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の語誌には、

 <「わたり」は「伊勢物語‐五」に「東の五条わたりにいと忍びてゆきけり」、「土左‐承平五年一月二三日」に「このわたり海賊のおそりあり」とあるように接尾語的に、あるいは「の」「が」による連体修飾に続けて用いられるだけであるのに対し、「あたり」は単独で用いられる。>とある。

(90-3)「然(しか)るべし」・・[連語]ラ変動詞「しかり」の連体形+推量の助動詞「べし」。それが適当であろう。現代語では、連用形から出た「しかるべく」、連体形から出た「しかるべき」の形が用いられるにすぎない。

(90-6)<漢音・呉音>「経文(きょうもん)」・・「経」は、「キョウ」が呉音、「ケイ」が漢音。「文」は、「モン」が呉音、「ブン」が漢音。日本には、呉・越地方、中国中部揚子江流域地方の古い時代の音が、先ず入ってきた。仏教伝来とも係り、仏教用語は、呉音が多い。

(90-6)「そと」・・しずかに。ひそかに。こっそりと。そっと。

(90-7)「言(いう)もさらなり」・・言うまでもない。もちろんである。

(90-9)「不足(たらず)くちおしき」・・とても残念だ。「不足(たらず)」は、不満足で。

(90-9)「いみじく」・・ひどく…である。

(90-10)「沖中(おきなか)」・・海洋の中。

(91-1)<くずし字>「教」・・影印は、「教」の決まり字。

偏は「おいかんむり」+「子」だが、「おいかんむり」を「才」のような形で上に書き、「子」と旁の「攵(ぼくづり・ノ分)」を一緒に脚に書くことが多い。

(91-1)「見えわかず」・・みることができず。「わかず」の組成は、4段動詞「わ(別・分)く」の未然形+打消しの助動詞「ず」の連用形。

(91-1)「地方(じかた)」・・陸地の方。特に、海上から陸地をさしていう語。陸地。岸辺。

(91-2)「日数(ひかず・にっすう)」・・経過した、またはこれから要するひにちの数。にっすう。また、何日かの日の数。

(91-23)「海上上」・・「上」がひとつ重複している。

(91-3)「ヱドモ」・・絵鞆か。絵鞆は、絵鞆半島突端北西部に位置し、北と西は内浦湾に面する。

(91-7)「実(げ)に」・・「現に」の変化した語かという。予告や評判どおりの事態に接したときの、思いあたった気持を表わす。なるほど。いかにも。本当に。

(91-6)「船ももろともに」・・「も」が重複で、ここは、「船もろともに」か。

(91-8)<異体字>「乞」・・冠部分が「ト」で脚部分が「乙」になる場合がある。

(91-10)<くずし字>「引かへし」・・「し」が「へ」に食い込んでいる。一見、「へし」が1字に見えるが、このテキスト影印では、よく見かける。

(91-11)「やゝ」・・副詞「や(彌)」を重ねてできた語。ある物事が少しずつ進むさまを表わす語。徐々に。次第に。順を追って。だんだん。

(92-6)「もどりてよかし」・・「よかし」は、意味不明。異本は、「くれよかし」に作る。                   

(92-7)「来年となれぬ」・・「来年と」は、文意が不明。異本は、「来年迄」に作る。

(92-9)「我々計(ばかり)」・・我々だけ。「ばかり」は、体言・活用語の連体形を受け、限定の意を表わす。

(92-10)「あながち」・・一途(いちず)なさま。ひたむきなさま。

(92-11)「言しろはん」・・言い合う。「しろふ」は互いに事をし合う意。

(93-11)「易なく」・・ためにならない。「易」は、「益」の当て字。