(96-1)「被成下(なしくだされ)」:組成は4段動詞「なしくだす」の未然形「なしくださ」

+尊敬の助動詞「る」の連用形「れ」。「成し下す」は、命令などを下す。

(96-2)「国政(こくせい)」:ここいう「国」は、松前藩のこと。

(96-2)「彼是(あれこれ・かれこれ)」:なんのかのと文句をつけて。苦情をいろいろと。

(96-3)「若(もし)」:「若」は、漢文の接続詞.。「もし」と読むのは、国訓。「若」を「わかい(年齢が少ない)の意味に使うのは、同音の「弱」との共通で、上代以降の用法。

(96-4)「実事(じつじ)」:ほんとうのこと。根拠のあること。実際のこと。

(96-6)「可相成(あいなるべき)」:「あい」は接頭語。 下に「儀」「事」を伴って、当然のことながら。

(96-6)「御隣国(ごりんごく)」・・ここでは、津軽藩のこと。

(96-7)「御沙汰ヲ」の「ヲ」:五十音図の第十行第五段(ワ行オ段)におかれ、五十音順で第四十七位(同字の重複を除いて)のかな。いろは順では第十二位で、「る」の次、「わ」の前に位置する。定家かなづかいの流では、「端のを」と呼んでいる。なお、「お」は、いろは順では第二十七位で、「の」の次、「く」の前に位置する。定家かなづかいの流では、「奥のお」と呼んでいる。

*「ヲ」は、「乎」の最初の3画からできている。「ニ」+「ノ」と三画で書く。「フ」+「一」と2画で書くのは間違い。

 *カタカナは、字源の漢字の最初の1~3画からできている場合が多い(別添『片仮名の由来』)  

(96-8)「手軽(てがる)」:面倒な手数をかけないさま。簡単でたやすいさま。筒易。軽便。

(96-8)「事済(ことずみ)」:4段動詞「事済(ことず)む」の連用形。仕事や事件などが完了または、解決する。 

(96-8)「被成下間敷(なしくだされまじき)」:組成は4段動詞「成下(なしくださる)」の終止形「なしくださる」+推量の助動詞「まじ」の連体形「まじき」。

 *推量の助動詞「まじ」は動詞の終止形に接続する。

 *<くずし字>「被成下」の「被」:衣偏が、旁の「皮」より上に飛び出す形になることがある。

(96-9)「差出ヶ間敷(さしでがましき)」の「ケ」:諸説あるが、「ケ」は、もともと「箇」の略体「个」から出たものといわれている。しかし、「箇」は、漢音で「カ」、唐音で「コ」で、「ケ」の音はない。「箇」の冠の「竹」の片割れの「ケ」が起源で、カタカナというより、記号であるという説がある。「ケ」を「カ」と読みのは、「箇」を「カ」と読むことから派生したといえる。

 *「君ケ代」「越ケ谷」「八ケ岳」のように連体助詞の「が」にあてることがある。これは前例の「三ケ日(さんがにち)」等の「ケ」の転用。

(97-1)「如是(かくのごとく)」:このようである。「如斯」「如此」も「かくのごとし」と読む。『類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう』には、「是」の和訓に「コレ・ココニ・カカルコト・ヨシ・コトハル・コトハリ・スナハチ・ナホシ・カクノゴトキ・カクノゴトク・タツ」を挙げている。

 (97-1)「恐惶謹言(きょうこうきんげん)」:男子が、手紙の末尾に書いて、敬意を表す語。恐れながら謹んで申し上げます。書留(かきとめ)といい、書状など文書の末尾に書く文言。書状では「恐々謹言・謹言」、綸旨では「悉之」、御教書(みきょうじょ)などでは「仍執達如件」、下文などでは「以下」というように文書の様式によってその文言はほぼ定まっている。とくに書状では相手との上下関係によって書札礼(しょさつれい)が定まっていた。*書留などは、受取人の敬意の程度を示めし、その書風が楷書、行書、草書と細かく区別されていた。場合によっては、漢字であることが判らないほど崩されている。

 *ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の語誌には、

  <代表的な例である「弘安礼節‐書札礼之事」(一二八五)によれば、「恐惶謹言」は、「誠恐謹言」に次いで敬意が高く、目上に対して最も広く用いられ、以下「恐々謹言」「謹言」等があって、目下に対しては「…如件」で結ぶ形式をとるという。実際の文書では「誠惶誠恐謹言」というさらに上位の表現や、「恐惶かしく」「恐惶敬白」といった「恐惶謹言」に準じた形式も見られ、他に「恐惶頓首」「匆々(草々)頓首」「以上」等が用いられる。いずれも実際の書状では符牒のように書かれる。>とある。

(97-5)「書判(かきはん)」:文書の後に自筆で書く判、署名、サイン。奈良時代から平安初期に、自筆で署名する場合には楷書が用いられ、これを自署(じしょ)と呼ぶ。次第に草書体にくずされて、草名(そうみょう)といわれ、草名がさらにくずされて原字が読解不能になり、図案化されて、書判、花押(かおう)と呼ばれる。

 *テキストは、奥平日記の原本だが、津軽家へ差出した手紙の写しだから、手紙にあった花押を書かず、花押があったことを「書判」とした。

(97-8)「御内(おんうち)」:「おん」は接頭語。手紙のあて名の下に書きそえることばの一つ。家族全体にあてて出すときに使う。

(97-10)「大沼又太郎」:『蓬田村史』所収の「積載箚記」に、外が浜代官といして、「大沼又太郎」の名がある。

(98-2)「去卯(さる・う)」:天保2年辛卯(シンボウ・かのとう)。

(98-2)「私(わたくし)」:「わたし」は、。「わたくし」よりくだけた言い方。現在では自分をさす、もっとも普通のことば。近世においては、女性が多く用い、ことに武家階級の男性は用いなかった。

 「わたくし」は、中世前期までは「公(おおやけ)」に対する「個人」の意味で用いられ、一人称の代名詞として用いられたのは、中世後期以降のこと。

(98-3)<くずし字>「三月」の「月」

(98-4)「多分」:ある物事の中の大部分。

(98-4)「偏(ひとえ)に」:もっぱらその行為に徹するさまを表わす語。いちずに。ひたすらに。

*語源は「一重」から。まじりけのないこと。純粋であること。そのことに専心すること。また、そのさま。ひたすら。

<古文書の体裁>「平出(へいしゅつ)」:敬意を表すべき特定の文字を文章中に用いる場合、改行してその文字を行頭におく書式をいう。     

テえキスト影印の場合、5行目行頭の「御威光」を尊敬して、「偏に」で改行している。

(98-5)「難有(ありがたき)」:形容詞「ありがたし」の連体形。「有り」+「難し」で、有ることが難しい、が元の意。めったにない、ということから、めったにないくらい優れている、の意になり、さらに現代語に通じる、感謝にたえない、の意になった。

 *「ありがとう」は「有り難し」から

お礼のことば「ありがとうございます」は、もともと「有り+難(かた)し」、つまり「有ることが難しい(めったにない)」という意味でした。

『枕草子』の「ありがたきもの」の段には、「舅(しうと)にほめらるる婿(むこ)。また、姑(しうとめ)に思はるる嫁の君。毛のよく抜くる銀の毛抜き。……物語・集など書き写すに、本に墨つけぬ」など、まさに「めったにない」ものが集められています。

この「めったにない」が、のちに「(めったにないほど)尊く優れている」「身にあまり、もったいない」の意味になり、さらに現代語に通じる「感謝にたえない」の意味になったのです。

それにしても『枕草子』の「ありがたきもの」が「かたち・心・有様、すぐれ、世に経(ふ)るほど、いささかのきずなき」(容姿・性質・態度ともに優れ、世間で日を送る間に、少しの欠点も持たない人)と続くところには、思わずうなずいてしまいますね。

(『ジャパンナレッジ版小学館全文全訳古語辞典』)

(98-5)「仕合(幸せ)」: 「しあわす(為合)」の連用形の名詞。

(1)  めぐり合わせ。運命。なりゆき。機会。よい場合にも、悪い場合にも用いる。

(2)  幸運であること。また、そのさま。

*今日「しあはせ」は「幸せ」と書いて、もっぱら運のよいことにいうが、古くは(1)だけの意味で、運のよい場合にも悪い場合にも用い、「しあはせよし」とか、「しあはせ悪(わろ)し」のように言い表した。

(98-7)「風聞(ふうぶん)」:ほのかに伝え聞くこと。うわさに聞くこと。うわさ。

*「風」には、「ほのかに」の和訓がある。熟語は、風説、風評など。

*「風す」は、「そよそよと吹く」で、遠まわしにいう。それとなくいう。ほのめかす。

(98-7)「驚入(おどろきいり)」:「おどろきいる」の連用形。ひじょうに驚く。すっかり驚いてしまう。「入る」は、補助動詞として用いられる。動詞の連用形に付く。せつに、深くそうする意を表わす。「思い入る」「念じ入る」「泣き入る」「恐れ入る」「痛み入る」など。

(98-8)「実説(じっせつ)」:)作り話でない、ほんとうにあった話をすること。また、実際にあったとおりの話。実話。

(98-8)「畢竟(ひっきょう)」:途中の曲折や事情があっても最終的に一つの事柄が成り立つことを表わす。つまるところ。ついには。つまり。結局。

(98-8)「聊(いささか)」:「か」は接尾語。程度の少ないさまをいう。少しばかり。わずか。

 *「いささ」:《名詞に付いて》 小さい、ささやかな、わずかな、の意を表す。「いささ群竹(むらたけ)」「いささ小笹(をざさ)」など。

(98-9)「品(しな)」:理由。わけ。

(98-9)「事起(ことおこし)」:事件を起こすこと。

(99-5)「何卒(なにとぞ)」:代名詞「なに(何)」に助詞「と」「ぞ」が付いてできたもの。

*「何卒」の「卒」は特別な意味はなくて「とぞ」ではなく「なに・と・ぞ」の「ぞ」(音のソツ)。あまりいい例が「武蔵国」を「の」が無いのに「むさし・の・くに」と読むように、「と」は省かれている。一種の熟語訓。

(99-6)「仁徳(じんとく・にんとく)」:仁愛の徳。民の辛苦を除き喜びや楽しみを与えようとする徳。

(99-7)「掛合(かけあい)」:要求などを話し合うこと。談判。交渉。

(101-5)<漢文訓独>「右者」の「者」:「者」は、漢文訓読の助辞で、名詞(名詞句)後に置く。音読みは「シャ」、訓読みは「もの」で、「は」は漢文訓読の置き字であり、変体仮名ではない。

 *仁者、天下之表也(じんてんかのひょうなり) 訳<仁とは人の世における規範である>(『礼記』)

 *古者、大事必乗其産 [古者(いにしへ)、大事(だいじ)には必(かなら)ず、其(そ)の産(さん)に乗(の)る。] 通釈の<昔は戦争という国の大事な場合には必ず自国産の馬を用いたものである>(『春秋左氏伝』)

  **「古者」の読みを「古くは」とせず、「いにしへ」と訓じている書き下し文。

(101-5)「久保田松五郎」:『松前藩士名前控』の「中之間中小姓」に「久保田松五郎」の名がある。

(101-6)「留主(るす)」:①漢音で「リュウシュ」。天皇・皇帝・王などの行幸の時、その代理として都城にとどまり、執政すること。また、その人。令制では皇太子もしくは公卿がこれにあたる。②呉音で「ルス」。主人、また、家人が外出した時、その家を守ること。また、その人。③「外出して不在になること。内にいないこと。在宅してないこと。」を意味する「るす」は、国訓。

(101-6)「下乗(したのり)」:調教として他人の馬を乗りならすこと。またその役。