(146-6)「漸(ようやく・ようよう)」:①漢語「漸」は「しだいに、だんだん」の意。②和語の「ようやく」は、①「しだいに、だんだん」に加えて、「やっと、どうにかこうにか」の意味もある。つまり、古くは漢文訓読用語であった「ようやく(漸)」に対して、主として仮名文学、和文脈で用いられた。別添資料『日本近代史を学ぶための文語文入門 漢文訓読体の地平』(古田島洋介著 吉川弘文館 2013)参照。

(148-1)「最前」の「最」:テキスト影印は「最」の俗字「㝡」のくずし字。

(148-2)「若(もし)」:「若」を「もし」と読むのは、漢文訓読体。「若(わか)し」は、国訓に過ぎず、漢字本来の意味ではない。なお、漢文訓読体で「わかし」は、「少(わか)し」。

(148-2)「如何(いかが)」:くずし字の決まり字。形で覚える。

(148-3)「周章(しゅうしょう)」:あわてふためくこと。うろたえ騒ぐこと。

(148-5)「別て(而)」:副詞。特に、とりわけ、ことに。

(148-6)「其方(そのほう)」:室町時代以降の用法。武士や僧が、自分より目下の者に対して用いるやや固い響きの語。おまえ。きさま。

(150-4)「曽(かつ・かっ・かつっ)て」:①ある事実が、今まで一度として存在したことがない、という経験に基づく否定を表わす。今まで一度も。まだ全然。かつてもって。

 ②ある事実が、過去のある時点に存在したことがある、という回想的な肯定を表わす。以前。昔。ある時。③まだ起こらない事について、それは実現しないだろう、また、実現させるべきではない、という否定を表わす。どんな事態になっても。ちょっとでも。

 *テキストでは、①か➂。

 *ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の語誌に

 <(1)「日本書紀」の古訓や訓点本などにみられるが、上代の文献で仮名書きの例は見当たらない。「万葉集」では「都」と「曾」の文字がカツテと読まれている。

(2)「都」は本来、すべての意であるが、打消の語を伴って完全否定のような用いられ方をし、「曾」は以前の意で「嘗」と通用して使われる一方、打消の語とともに用いられて「都」同様、否定の強調に使用される。

(3)この語は平安時代では漢文訓読に用いられ、和文では、「つゆ」が用いられる。カッテと促音に読むのは近世以後のことである。>とある。

(150-4)「無御座候」:「無」が極端に平になっている。また、「御」と接近している。

(150-5)「手合利(てごうり)」:手行李。行李は、携行用収納具の一種。竹・柳・真藤などでつくられ、古代より行われる。大中小さまざまの形態があり、大は衣服入れ、小は弁当行李として利用され、中は越中の薬売や越後の毒消売をはじめ、近世社会の行商人はこれを風呂敷に包んでかついだ。それより少し大きいものは旅人たちの振分荷物を入れるものとして手行李とよばれた。江州水口では小さな精巧な真藤製品がつくられ、同高宮や山城でも同じく真藤製品が名産、但州の豊岡・出石と因州用瀬は柳製品の産地である。現在では兵庫県豊岡市(柳行李)、静岡県御殿場市周辺(竹行李)などで生産されている。

(150-6)「差図(さしず)」:「差図」は、本来は、地図・絵図・設計図をいう。また、建築の簡単な平面図をいう。設計のため、あるいは儀式などの舗設を示すために描いたもの。平安時代の日記類には指図が多く描かれていて、風俗史・住宅史の貴重な史料となっている。なお正倉院蔵の東大寺講堂院の図はこれに類するもので、建築の平面図として最古のものである。

 *テキストでは、物事の方法、順序、配置などを指示すること。指揮すること。また、その指示・指揮。命令。現在では、「指図」が一般的。

 *「差図」の「図」:くずし字では、「囗(くにがまえ)」の縦棒を、最後に、左右に「ヽ」を書く場合がある。