寒卵かゝらじとする輪島箸 前田普羅(まえだ-ふら)・・
「寒卵」は、鶏が寒中に生んだ卵。他の季節のものに比べて栄養素を多く含み、普通の卵より重さがある。寒卵を擬人化して、堅牢な輪島塗の箸にも、おいそれと掴まれまいとしている寒卵を詠む。すると、この寒卵は、ゆで卵か。あるいは、寒卵は、割ると黄身が盛り上がるので、輪島箸でも、なかなか、黄身を掴み取れないことを詠うか。石川桂郎は、「塗椀に割つて重しよ寒卵」と詠む。作者の前田普羅は、虚子に見出された大正期の「ホトトギス」の大看板の一人。
ところで、大寒の末候は「鶏始乳(にわとり はじめて にゅうす)」。ニワトリが卵を産み始める頃をいう。これが明けると、立春を迎え、暦もいよいよ春となる。寒卵を食べればじきに春がやってくる。