(25-1)「帰島」・・異本は、「帰国」とある。
(25-2)「達而(たって)」・・「達」はあて字。無理を押してもしゃにむに物事をするさまをいう。強いて。是非とも。
(25-3)「さも」・・副詞「さ」に助詞「も」が付いてできたもの。副詞「さ(然)」を強めたいい方。そのようにも。その通りにも。影印の「左」は変体仮名で「さ」。
(25-6)「与」・・「与」は、漢文の助辞。漢文訓読で「Aト与レB(AとBと)」の「与」
*「富与レ貴、是人之所レ欲也」(『論語』)
(フウとキとは、これひとのほっするところなり)
(26-3)「船寄(ふなよせ)」・・船を寄せること。
(26-4)「掛戻(かけもどり)」・・駆け戻り。駆けてもといた場所へ帰る。
(27-1)「勝手(かって)」・・物事を行なうときなどの都合や便利。
(27-3)「入湾(にゅうわん)」・・入り込んだ湾。
(27-3)「入湾」のルビ「モトノマヽ」・・一般には「本(ほん)のまま」という。書物などを書写・校合する際に、不明の部分を原本どおり写し取ったこと。または、そのしるし。略して「ママ」と傍記することがある。
*「本(ほん)」・・漢語では、もともと、草木の根、または根に近い部分をいうが、日本では物事のもとになるもの、根本、基本の意から、規範となるもの、主たるもの、本来的なものなどをさしていう。もとになるもの。書写されるもとの書物など、ある状況から転じて現在の姿に変わったものに対して、そのもとのものをいう。
(27-3)「空室」・・異本は「穴居の跡」とある。なお『ふなをさ日記』には、「空室」に「あきや」とルビがある。
(27-3のルビ)「歟(か)」・・漢文で、疑問をあわらす助辞。
(27-4)「ワニナウ」・・ウルップ島東海岸の地名。日本名は小舟。文献に現れた「ワニナウ」を拾うと、
・明和5年(1769)・・「子年にはウルツブ島東浦ワニナウといふ処へヲロシヤ人多く乗りたる大船渡来」(『休明光記』)
・安永9年(1780)・・「彼もの共の乗船ウルツプ島ワニナウといふ所へ繋置しに、海浪にて山手へ打上げ、おろす能ず。(『休明光記』)
*「海浪」は、この年1月8日に始まった大地震で、6月18日には最大規模に達して津波が起こったことをいう。停泊中のロシア船はナタリア号。4名が溺死。(『新北海道史年表』)
・天明元年(1781)・・前年のオロシヤ人(船長シャパーリン)、「小船に乗組帰国」(『休明光記』)
・天明4年(1784)・・ナタリア号引き下げのため派遣されたシャパーリンら、ワニナウに渡航したが、乗組員の不和も発生し、ナタリア号は放置される。(『新北海道史年表』)
・寛政7年(1795)オロシヤ人ケレトプセ、ソシリ、コンネニチ数十人が、ウルップ島ワニナウへ大船で渡来、34人は家居をつくり永住、ラッコその他漁業を営むとともに、厚岸の長夷イトコエらと交易を開始した。(『新北海道史』)
(27-6)「泙合(なぎあい)」・・海が平穏の間。「なぎ」は、「凪」「和ぎ」「𣷓」とも書く。なお、愛知県豊川市の地名に「泙野(なぎの)」がある。
*<漢字の話>「泙」・・漢文では、「ホウ」と読み、「水の勢いのさかんなさま」。「なぎ」とは逆の意味。「水」+「平」で、「なぎ」と訓じるのは、典型的な国訓。
(27-6)「両三日(りょうさんにち)」・・2,3日。「両」は、数の二。ふたつ。一般には、「両手」「両端」など、「対になっている物の双方」の意味で使われることが多い。
(27-6)「相立(あいたち)」・・相経(た)ち。(日数が)経過し。「立」は、「経ち」の当て字。
(27-7)「ラソワ人」・・中部千島ラショワ島に住む人。ラショワ島は、千島アイヌが居住していた。文化2年(1805)9月から翌年2月にかけて、継右衛門ら慶祥丸の漂流民6名がアイヌやロシア人ズヴェズドチョトフと共に滞在した。「ラソワ」は、日本名「羅処和」。
(27-9)「和泙(なぎ)」・・当て字。「和」も、「泙」もなぎの意。「なぎ」は「和ぎ」とも書く。なお、「なぎ」の語源として、<水面がなぎ倒されたように平らになることで、「なぐ(薙)」の連用形の名詞化とする説もある。>(ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』)
(28-1)「礠針(じしん)」・・磁石の針。影印は、「礠」。
(28-2)「相極(あいきめ)」・・相決め。「極」の訓は、普通には、「みわめる」だが、古文、古文書では、「きめる」と読み事が多い。なお、現代語にも、「月極(つきぎめ)」「取極(とりきめ)」などがある。
(28-6)「時分(じぶん)」・・大体のとき。ころ。時期。
(28-8)「礼儀(れいぎ)」・・敬礼・謹慎を表わす作法。「礼」はその大なるもの、「儀」は小なるものをいう。社会のきまりにあった、交際上の動作や作法。挨拶のしかた。また、それを行なうこと。
(29-1)「然ば(しかれば・しからば)」・・先行の事柄の当然の結果として、後続の事柄が起こることを示す。順態の確定条件。そうであるから。だから。
*「しからば」は、①順態の仮定条件(そうであるならば。それならば)を示す場合が多いが、➁順態の確定条件(そうであるからには。だから)をも表わす。
ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の「しからば」の語誌には、<已然形に「ば」のついた「しかれば」と用法上接近して、中世末には➁の用法が多くなる>とある。
(29-4)<くずし字>「異国」の「異」・・「霊」「畢」のくずしと似ている。「異」は脚が「大」で、「霊」は、「火」、「畢」は、「十」だが、区別がつかない場合もある。
(29-5)<くずし字>「器物」の「器」・・冠と脚で構成される字は縦長になる場合が多い。
(29-5)<くずし字>「器物等」の「等」・・「ホ」の形になる。