(8右2)「気色(きしょく)」・・顔面にあらわれた表情。顔色。
<語誌>「気色」は、呉音「けしき」と、漢音「きしょく」及びその直音化の「きそく」の三とおりの読みがなされる。「きそく」は平安末期以降用いられ、さらにやや遅れて「きしょく」が中世以降盛んに使用されたが、「きしょく」の多用に伴い、「きそく」は徐々に用いられなくなっていった。
中世以降、の用法で「けしき」と「きしょく」(「きそく」は「きしょく」よりさらに意味が限定される)が併用されるが、「けしき」は中古の仮名文学に多用されたため、和語のように意識され、外面から観察される心の様子について用いられる傾向があるのに対し、「きしょく」は漢語的な性質をもち、人の内面の状態そのものを表わすことが多いというおおよその違いがある。
(8右3)「にや」・・(格助詞「に」に疑問の係助詞「や」の付いたもの)場所・時などに関して、疑問または反語の意を表わす。~のだろうか。
(8右4)「か程(ほど)」・・斯程。これほど。これぐらい。この程度。
(8右5)「シビトロ」・・蘂取(しべとろ)。エトロフ島東部、エトロフ海峡に面している。資料1.参照
(8右5)「とぞ」・・(格助詞「と」に係助詞「ぞ」の付いたもの。文末にあって「言へる」などの結びは失われて)一般的な解説または伝聞の意を表わす。…というわけである。…ということである。
(8右5~6)「調役下役(しらべやくしたやく)」・・松前奉行(文化4年=1807=10月24日、奉行所を箱館から福山に移し、箱館奉行は、松前奉行と改称した)の役職名。本文書時期の文化13年当時の松前奉行の役職名と役人名は資料3参照。
(8右6)「村上貞助(むらかみていすけ)」・・松前奉行の役人。当時、エトロフ詰合。貞助は、文化8年(1811)、松前奉行の命を受け、福山に幽閉中のゴローニンからロシア語を学んでいる。その後、貞助は、ロシア語の通訳として、日ロ交渉で活躍している。また、村上島之丞の養子にもなっており、秦貞廉の筆名で、友人の間宮林蔵が口述した「東韃紀行」を編纂している。
(8右8)「折々(おりおり)」・・次第次第。段々。
(8右8)「給(たべ)」・・下二活用「給(た)ぶ」の未然形。「飲む」「食う」の謙譲語、また、丁寧語。
(8右8)「ことごとく」・・「こと」は、「こ」と「と」のひらがな合字*。「杢(木工)」「麿(麻呂)」は、漢字合字。下のような記号合字もある。
*記号合字・・「之を弗と書するは、U〈ユウナイのユウ〉S〈ステートのス〉の合字$を標としたるなり」(久米邦武著『米欧回覧実記』)
*ひらがな合字の例・・「候て」「候べく候」など。資料2参照。
(8右8)「封印(ふういん)」・・物が勝手に開かれたり、取り扱われたりするのを禁ずるために、封じ目におした印章。
(8右9)「つばら」・・くわしいさま。十分なさま。つばらつばら。つまびらか。つばらか。
(8右9)「一(ひと)わたり」・・ひと通り。いちおう。
(8右10)「湯あみ」・・湯浴。お湯に入って温め、また洗うこと。入浴。
(8右10)「月代(さかやき)」・・近世、露頭が日常の風となった成人男子が、額から頭上にかけて髪を剃(そ)ること。また、その部分の称。語源には、「昔、冠を着けるときに、前額部の髪を月形に剃ったところから」など諸説がある。
(8右11)「ものゝけ」・・物怪、物気。人にとりついて悩まし、病気にしたり死にいたらせたりするとされる死霊・生霊・妖怪の類。また、それらがとりついて祟ること。邪気。
(8右11)「ねぶく」・・寝むく。形容詞「寝(ね)ぶし」の連用形。
(8右11)「弁(わきま)へ」・・分別。
(8左2)「腹もち」・・腹持ち。腹のぐあい。腹の調子。
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